Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

リードと籐かご

こないだあぶなかったんだ
それで土日ずっと落ち込んでさ
ほんとうにいなくなったら
目も当てられないと思うんだ
 
三年前にはもうそんな話
直接何が出来るわけでもない
思いを巡らせる最悪の事態
滅茶苦茶になっても構わない
 
どうしても無理なら休んでも
戻るまで待つから安心してよ
仕事至上主義の頃もあったけど
それなりに変わってきたところ
 
そうしたら何も言わなかった
いつも通り馬鹿言って笑った
その前もその後もそうだった
それでこっちが泣いた
 
前にもこんなことあったなあ
ほんとうに心底つらいことは
すぐに周りと分かち合うことが
出来ないものかもしれないな
 
祖父母の通夜葬式は全部週末で
忌引を一日も使わなくてね
もう来たのかよなんて呆れられ
迷惑のない日にしたのかもって
 
父も休まず仕事に行った
葬式の疲れを残して家にいた
母のことはつい忘れていた
昼はひとりで何を考えたのか
 
こっちの方が喜ぶと言い
庭木のボケと備前焼の一輪挿し
ばあちゃんへの恨み言は健在
十数年まだ死んだ気がしない

未確認の希望

くたばり損ないが
戻ってきたらどうすんだ
口が悪いのには慣れっこさ
またひでえこと言ってんな
 
洒落の通じないやつらも
多いし制御してそうだけど
あんなに言い募るほど
怖いんだろうなとも思うよ
 
前の方がずっとよかったとか
今の方が断然いいんだとか
どっちかを踏んづけてから
言いたがるやつもいるもんさ
 
どっちか贔屓するにしても
生身相手に100対0はないよ
70対30くらいだとすると
未知が30対70ってことだろ
 
知らないことには
いいも悪いもないんだから
失望も希望も両方あるのさ
生き物は変わるものだしな
 
脅かされたと思う時
悪意の陰口を耳が作る時
相手はこっちを何も知らない
ただそれだけと思うといい
 
あんなに愛したひとのこと
くたばっちまえと思うだろ
肌に合わずに避けたひとも
いいとこあるなら見直すよ
 
続けていればね
丁も半も出るのが筋だって
勝つまでやらず負けて寝て
毎日ダイスを振る夜明け

手動で信じる

俺なんかほんとうは
偉くもなんともないんだ
全幅の信頼みたいな
あんな目ェされたってさあ
 
その偉くもないってひとを
選んだ私の身にもなってよ
や、まあそりゃそうだけど
相手は小学生なんだよ
 
小学生なら罪悪感あるけど
妻なら別にいいってこと?
んなこと言ってないっつの
わかってるってば 冗談よ
 
でも考えたらあれだよな
なんで信じられるんだろな?
大人も子どももないけどさ
根拠も何もないじゃんか
 
それもそうよね
最初にこのひと怪しいって
離れたら終わりだもんね
だろ?最初信じたのなんで?
 
はっきり思い出せないけど
ひとりでには信じないわよ
え、どういうこと?
自分の意志で選んだってこと
 
信じるか信じないかって
相手が決めるんじゃなくて
他人が決めるんでもなくて
自分の責任だと思うのよね
 
俺がお前なら選ばないぞ?
そんなの私だってそうよ
物好きがいて助かってるの
うん、俺も

喜怒哀楽一里塚

怒るたんびにいちいち
終わってちゃキリがない
おためごかしはごめんだし
喧嘩だってたまにしたい
 
いつ本気全開で怒っても
平気だよって言いたいけど
なにその駄目かもって顔
なんでそっちがそうなるの
 
何も見なかったフリ
気付かなかったフリ
何も感じなかったフリ
感じていたフリ
 
これっきりになりそうな
ひとならそれも気遣いかな
でもずっとは続かないから
自分の根が枯れちゃうから
 
一緒によろこべる相手だと
ひどく怒る日もあるものよ
かなしくなったら黙るけど
ご機嫌で楽しい時もあるの
 
凸凹は揃いのピースだから
ボルトはナットと組だから
川に落ちて底まで沈んだら
思いっきり蹴伸びするから
 
毎日正しくなくていいし
時間差を怖がらなくていい
今日は悔しくてたまらない
昨日は言い過ぎたみたい
 
そうやって振り返った時
いろいろあったけどこの道
悪くなかったんじゃない?
そうなるように歩きたい

リモコンを持つ手

つまらないドラマを観たのよ
そのあらすじを延々と話す妻と
あくびを噛み殺す娘の横顔
確か僕が昨日聴かなかったもの
 
僕はニュースなんかは別として
ドラマにはてんで興味がなくて
チャンネル、回す機能あるよね
そうじゃなかったっけ
 
最初は活発に質問をした娘だが
そのうち相槌がなくなってきた
それでも遮らずに聴くんだな
親子というか、なんというか
 
一通り聴いたあと娘は言った
いつものあんたの話だったら
ダイジェストでも大体わかるわ
何その後味悪いだけのグダグダ
 
だからつまんない話だって…
最後まで観なくていいよね?
昨日は他に観るものがなくて…
私に細々言わなくていいよね
 
文句言いつつ観てる暇人って
飛んで火に入るなんとかで
選ぶ権利はこっちにあるのよね
イヤなら切ればいいんだって
 
表現の自由だのヘチマだの
席蹴って退場の自由ありきよ
楽しくさせる気がないんだもの
ひとりで悦に入ってろってのよ
 
最近怒らなかったのに珍しい
又聞きで泣いた時もあるのに
妻の話は当たり外れが激しい
娘は洗い物へ 僕は寝たふり

騙す拡張子

そんなんじゃ騙されないわよ
腰に手を当ててむくれた顔
騙すんなら墓まで騙してよ
死んでも死にきれないでしょ
 
そんな大げさな
杓子定規なこと言ってんなあ
もし自分が騙す側になったら
自分に返ってくるんだからさ
 
あたしはそんなことしない
ひとを欺いてまで貫きたい
そこまでの野望なんてないし
矛盾に耐えられっこないし
 
清きに魚の住みかねて
って言うだろ 理想論だって
自力で生きてないからじゃね?
世の中っていろいろあるわけ
 
…そうかもしれないけど
まあそうだったとしてもよ
全員を騙さなきゃいけないの?
死ぬまで他人なのねえ、私も
 
じゃあ何もかもほんとうの
ありのまま額面通りの俺を
ぶちまけて見せたとしろよ
お前まず着いてきてねえだろ
 
そんなのわかんないわよ
差し引きの問題じゃないの?
自分勝手に決めつけないでよ
それはあたしが決めることよ
 
便所でパンツをなくしたような
心もとなさで首に手を当てたら
あくびのちょこんと目が合った
慌ててかぶり直す親二人分の皮

菓子折りの沈黙

ありえない、絶対駄目ですよ
考えらんないですそんなこと
他のひとなら軽蔑出来るけど
よりによって…僕困りますよ
 
そう責めたいのだろうに
体を小さくして顔色が悪い
つらかったろうね すまない
堅物だからな そこがいい
 
俺も昔は随分幻滅したもんだ
許せなくて恨んだもんさ
誰がなんたって外道なことだ
忌々しい、見損なったってな
 
ひとってのは間抜けなもんで
喉元過ぎりゃ忘れちまって
元はいいやつだったしなんて
水に流せるやつもいたがね
 
俺がそうだとは言わないよ
俺が言うことでもないけれど
割り切れなさも知るがいいよ
抑えがきかない胸のとぐろも
 
もうバカにされたくないから
後ろ指さされたくないから
堂々とひとを責めたいから
俺にも正しくいて欲しいのか
 
お前にもじきにわかるさ
理屈じゃ通らないジクジクが
胸のここんとこにあるんだ
ひとってものは厄介だよな
 
その去来は同じ胸に畳んで
好きにおやりとだけ言って
生真面目はいよいよ身を縮め
濃いクマがふちどる滲んだ目