Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

無遠慮なむき身

ひとを笑わせたり元気づけたり
励ますような役として生きたい
そう決めてあまり間もない旅先
不機嫌に黙りこむ目の前の友達
 
あの時は焦ったし参ったなあ
楽しい時は楽しくやってたから
なんとかなるとは思ったけどさ
怒らせるつもりはなかったんだ
 
旅行って大概そうなるんですよ
普段ならせいぜい半日でしょ
どんなひととでも長く一緒だと
何かヘンな我慢しちゃうのかも
 
文句ならその場で言えよって
思ったけど僕も言えてなくて
合わせてるのは僕の方だって
どっかで思ってたのかねえ
 
私も怒られたことありました
次にどこで降りて乗り換えるか
任せきりで着いて行ってたら
自分、ちょっとは考えや!
 
船頭多くして、じゃないけど
ちゃんと任せるのも大事だろ?
…って僕も思ってたんだけど
旗色が悪いよな喧嘩になると
 
そうなんですよ、それで私は
急に自力では行けないから
フテてだんまりになりました
でも話しかけて欲しかった
 
あいつもそうだったのかなあ
癪だったけど結局声かけてさ
まくしたてたら喉がカラカラ
目を上げると笑い出す背中

ヒマツブシモドキ

明け方にはリリリと虫が鳴く
そうか、元に戻ったんだろう
暑いとそれだけで頭が沸く
ありもしないのに惑わせる希望
 
ありがたいね
ただでも幸せなのに思われて
悪い気はしないよそりゃあね
気休めや励みになればそれで
 
お裾分けってのは
ことのついでだからさ
気兼ねがなくていいもんだ
張り合いくらいにはなるしな
 
あとはどうやってあの勘違いを
適当に散らしてそらすかだよ
楽しいことは他にもあるだろ
いろいろつらいのはわかるけど
 
ありがたいことよ
家族にも恵まれてるんだもの
そりゃまんざらでもないわよ
支えになれるって冥利だもの
 
お余りのやさしさだって
元があるから出るものだしね
恩着せがましくならなくて
身内にもいい顔出来るのよね
 
あとはどこまでもつかかなあ
あたし?いや向こうもどうだか
なんか逃避してるっぽいから
案外さみしいんじゃないかな
 
めいめいに聴こえないように
したり顔で言って笑い飛ばし
ひとりになると風呂場で泣き
どうせ必ず死ぬのに 嘘つき

おかめひょっとこ

ひとの気も知らないで
ひとの気も知らないで?
別になんでもねえって
オカメインコかよお前
 
ああいう鳥ってすごいなあ
あん?何が
話わかってるみたいだから
んなわけねーだろばーか
 
何イライラしてんのよ
別にしてねえよそんなの
ほら爪んとこひっかかないの
うるせえな おふくろかよ
 
なんで渋そうな顔してんの
て…目になんか入ったんだよ
あらら、見せてみ、ちょっと
…いいよもう見んじゃねえよ
 
あ、よかったらこれ使って
ハンカチ?なんで
汗かいてるから…暑いもんね
もー、やじゃねえのかよお前
 
どうしてやなの?
知らねえけど俺ならやだよ
私、別にいいけど
どうでもいいってことだろ
 
どうなってもいいけど…
え?急にボソボソ言うなよ
もー、なんでもないわよ
なーに急に怒ってんだよ
 
ひとの気も知らないで
ひとの気も知らないで?
オカメインコみたいね
わかって言ってんのお前?

こぼさない涙の川

よく知っているひとが
お空の向こうへ行ってしまった
よく知っていると言いながら
会ったことは一度もないんだ
 
悲しむほど好きだったかどうか
考えてみたらよくわからないんだ
お葬式に行くってわけでもないさ
でもいなくなるってさみしいな
 
そのひとが残した歌はとても有名
テレビを観ていると息が苦しい
閉じこもる二階の部屋は蒸し暑い
床に座り汗をぬぐってぼんやり
 
手持ち無沙汰になって
センチメンタルになって
ちいさく、あー、と声を出して
そのひとの歌い方を真似てみて
 
うへほむふひて あるこほほほ
なみだが こぼれへないよほ…
なんだよ なんだよ
泣いてなかったのに涙が出るよ
 
ほんとのこと言うと
ひとのことで涙が出るよな自分を
もうひとりの自分はやさしいなと
自惚れた気がする 悪くないよと
 
あの頃は十歳の子どもだった
純粋だったし浅はかで残酷だった
今は悲しむように仕向けたら
戻ってこれなさそうで怖いんだ
 
歌わなくても想像しただけで
泣きそうだから歌えなくて
もうひとりの自分は斜め上で
静かに睨むんだ 死ぬなよって

ヒヨコの選別

これはまた今度でもいいですかね
あ、じゃそっちは今やりますので
申し訳ありませんお手数おかけして
私ちゃんとしたこと言ってるよね?
 
ゲームのスポットを探して歩く
あっこれかと言って立ち止まる
ひと通り操作を終えて我に返る
これってヘンなひとに見えてる?
 
ひらびの午後の図書館に寄り
雑誌を取って記事を拾い読み
時々鼻をひん曲げる変なにおい
えっ私じゃないよねと汗を嗅ぎ
 
ふっとバカバカしくなる
そうです私はヘンなひとなんです
お医者さんでも証明済みなんです
心配しなくてもみんな違う
 
変わっていて面白いですねと
言った口が それは邪道ですよ
ちゃんとしたひとは違うんですよ
それを認めたらヘンになるでしょ
 
俺はお前なんかとは違うんだ
わかってます だからなんですか
違わないひとってどのひとですか
まずあなたは私とは違うんですか
 
ひととは違うひとになれと言い
ひとが違っているとむっと睨み
そういうのはよくないんじゃない
頭がオカシイんです 申し訳ない
 
伝家の宝刀というか印籠というか
いい気な言い訳で群れから離れた
これがなくてヘンなひとは大変だな
違わないひとがいるってんだから

青い尻とおっさん

ごきげんでいるおとなってのは
そうなりたくてそうしてるんだ
不機嫌になるのは割と簡単さ
ひとのせいだと思えばいいんだ
 
言霊 悪いことは口にしない
出来すぎたひとが煙たい時もあり
ふと漏らす弱音に胸躍る夜もあり
そのあたり さじ加減が難しい
 
でもいくら美辞麗句を尽くしても
相手はヘンテコに繕った痛みを
かすかによれた皺から嗅ぎ取ると
首を傾げてほんとうを聴き逃すよ
 
若いうちは背伸びもかわいい
着飾って大きく見せ争いに勝ち
どうにかこうにか居場所を作り
いざくつろぐとゴテゴテで困り
 
ぞんざいな扱いは不機嫌の種さ
なんで今更こんな目に遭うんだ
俺を一体誰だと思ってやがんだ
毎日いい顔してやってんのにさ
 
繰り返してある日ふと気付く
見せたい自分は見抜かれてる
取り巻きなら付き合ってくれる
とっくに通じない相手もいる
 
それだったらもう裸でいいかな
わざわざ作るから疲れるんだ
疲れてるから腹が立つんだ
自分じゃないから卑屈なんだ
 
パンツを脱いで怒る相手が
何をわかってくれるってんだ
そろそろ魔法も解けるお年頃さ
それでも着いてきてくれるかな

怒りの合いの手

うちの息子と喧嘩らぁしたことない
こらっ、言うちゃろう思うた時に
パッと見たらもう逃げておらんし
勘がええんかなんか怒ることがない
 
結婚前に自慢たらたらよと母は苦笑
おとう言うたら勘ニブ男じゃろう
私が言うと そう思うじゃろう?
それのにからええのええのばあ言う
 
茶の間でかかったままの録画もの
ごごごごふががと轟くいびきの音
出元は私の父にして母の夫
親の贔屓の引き倒しで育った息子
 
お義父さんが言いよったのは
あれはひょうきんなとこがあってな
夕飯時におちゃらけて笑かすんじゃ
まあお調子乗りよ あんた似とるわ
 
勘弁してん、と飛び火をはらうと
あんたらは喧嘩ばあしよったけど?
私も昔はこんなじゃなかったんよ
親の言いなりじゃけえ、あの男
 
その癖お義母さんが私の悪口言うたら
私を悪もんにしときゃええのにから
ブスーッと黙ーっとるから余計怒るわ
言うこと聞かんなった、言うてな
 
あんたの悪口は言わなんだ言うから
お義母さんの悪口も言いませんでした
そう言うたら なんも言われるような
ことらしとらん言うて怒り出してから
 
ほんっま好かなんだ、吐き捨てと同時
おならのブー、ふわあああのあくび
まあようしゃべるなあ、あんたら二人
起きたんなら牛乳飲みねえと母ケロリ