Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

気付きの順序

バイトで渡された着ぐるみは
近くで見たら薄汚れたパンダ
すえたような臭いにむせながら
頭のてっぺんから汗をかいた
 
友達に見られたくねえなあ
とにかく三日の辛抱だからな
おおい、何ボヤボヤしてんだ
あっはい、今行きますから
 
風船につけたパンジーの種と
印刷ハガキを両手でそっと渡すと
パンダさんありがと、と笑う子
怖がる子、蹴る子、無表情な子
 
朦朧としつつ休憩前ラスト一人
持ち損ねた風船はふわりふわり
あ、…こっちでいい?
やだあ、あれえ、あれがいい
 
頭突きしそうになってこらえて
走り出した先に妹が立っていて
おン前なんでここにいんだ どけ
えっ、お兄ちゃん?何やって…
 
狭い視野に白い幕、黒点ぽちり
足の力が抜けてひっくり返り
やだっ、ちょっと!しっかり
かぽっと頭を外されて台無し
 
同じ色の風船渡しゃいいんだよ
呆れて水を差し出す先輩バイ
ごめんなさい、兄がご迷惑を
いやその…似てないね、妹?
 
急に声を低く張る先輩をねめつけ
もういいからお前は早く帰れ
心配そうな顔が肩から震え出して
なあにそのカッコ うるっせえ

笹の葉の舟

おいしいものが食べられますように
短冊にそう書いてあったと母は笑い
星に願うようなことじゃなくない?
もっと叶わないこと願えばいいのに
 
口では笑ってそう茶化しながら
じゃあ自分なら何を願うのかな
神信心すらあぶなっかしいのにさ
こんな時だけ虫がよくないか?
 
見上げれば雲に覆い隠された星
織姫彦星の会えますようにの願い
自分達だって空模様頼みの癖に
ひとの願い事受けてるんじゃない
 
それにしても星ってのは不思議
実際にひとが目指す場所でもあり
ばあちゃんはどの星かなでもあり
光の出処が今あるかもわからない
 
メルヘンなんかは柄じゃないけど
夢ってそんなもんかなとは思うよ
どこか不確かだしとても遠いけど
絶対届かないんじゃ描けないもの
 
「おいしいもの」か…
ふと思う、何が略されているのか
ばあちゃんみたく胃を取ったのかな
会えないひとと食べたかったのかな
 
病気や不安で喉を通らないこと
ひとりで面倒でおざなりになること
おいしく食べられない時もあるよ
自分だけで叶うことじゃないのかも
 
天気予報、近付く台風の目
落ち着かない織姫と彦星の逢瀬
誰かをぼんやり思いやるのが夢
おいしく食べられますようにって

うっかりvs方向音痴

ああもう、悪かったよ
何も泣く事ないだろ
ごめん、そうじゃないのよ
そうじゃないってなんだよ?
 
あなたのせいにしちゃった方が
楽だけどそうもいかないわ
まず、ご飯食べ損ねたのね今朝
…何の話してんだお前は
 
まあ聴いて、なんでかっていうと
夜更かしと寝坊で作れなかったの
また今日に限って通院日でしょ
ダメねえ、寝ないで食べないと
 
うん…それで?
私ここんとこまた太り気味で
あー、言われてみりゃそうかね
で、歩こうかなと思ってたわけ
 
あんま寝てないんだろ?
そう、それが間違いの元なのよ
途中で道に迷っちゃったの
お前はいつも迷子になるだろ…
 
行ったら帰んないといけなくて
当たり前だろ、地図見ろって
要はね、私くたびれてたのね
話まで遠回りしなくていいって
 
多分、あなたが言ったことは
普段ならそんなに気にしないわ
余力がないからこたえちゃった
でもそれって私の都合だから
 
飯なんか別に店屋物でいいしさ
余計な無理するこたないんだ…
あ、馬鹿、なんでまた泣くんだ
悪かったよ、飯にしよ、な?

ヘルツとコール

死んじゃいたいと言いながら
ラジオのスイッチを入れるんだ
そんなのおくびにも出さずにさ
変だけど割とよくある話なんだ
 
俺が冷たくあしらったら
糸が切れるかも知れないのかな
そんなこといちいち気にしたら
黙るしかなくなるだけだからさ
 
急に元気になったり
急にしょんぼりしたり
それは君のせいかもしれないし
ただの自惚れかもしれない
 
そんなつもりじゃないことで
笑わせることがあって
泣かせることもあるなんて
そんなの誰だってそうだからね
 
顔を合わせてしゃべる分には
いつものいらいらの手癖だとか
すぐ返事をしなかったなとか
ハンドルを切る材料もあるんだ
 
でもそれぞれが箱の中にいると
真面目な話を笑われていても
からかう話で泣かれていても
わからないよ 誤魔化せるもの
 
廃れた話作り話といきのいい話
混ざるから気付くこともあり
お互い惰性の無神経知らないふり
あるいは何かの拍子にプツリ
 
言わなきゃよかったんじゃない?
いつでも最後なんだと思えばいい
汗ばむ十円玉 タバコ屋の軒先
赤電話の受話器 雨音とハンカチ

屈託の忘れ方

やあこっちこっち、お疲れ
すみません、遅れてしまって
いいよいいよ、大変だったね
あ、じゃ私、とりあえず生中で
 
かんぱーい
かんぱーい
イカそうめん頼むけど他にない?
えっと、じゃあ茶豆と揚げ出し…
 
なんなのお前、豆ばっかり食って
いや、ダイエット中なんですって
何言ってんの、目にクマこさえて
どうすんの、その面で腹凹ませて
 
言われてみればそれもそうですね
じゃあ牛すじ煮込みとゲソ天で
それでいい、お前の取り柄なんて
食いっぷりくらいのもんだからね
 
それってあんまりじゃないですか
冗談だよ、腹一杯食えってことだ
はい、でも、実際さっきまでは
あんまり食欲もわかなかったから
 
ひとに言われて出る食い気なら
まあまだ芯は元気ってことだな
そうなんでしょうか?
いいんだよ、そう思っとけば
 
牛すじゲソ天お待たせ致しました
いただきます、はー、お腹すいた
しっかし色気のないもん頼むなあ
好きだし、作るの面倒ですから…
 
からかい笑いながらふと思い出す
元々呼び出したのは俺のはず
ふくれっ面と泡の消えたビール
聴かせるはずだった愚痴と文句

人肌と理想

あなたに言うときっと怒るから
言えなかったと彼女は泣いた
あなたは正しいことが好きだから
あなたの理想はいつも高いから
 
あのひとはね、あたしのダメさを
そのまんまで抱いててくれるの
あなたはいつもこう思ってんのよ
"俺がいいように言ってやってるだろ"
 
そのたんびにあたし思ってたわ
まんま言ったら人聞き悪いんだ
ってことはあたし感じ悪いんだ
このひとあたしの何が好きなのかな
 
ごめんね、全部あたしが悪いの
でもあたしを見てくれるひとと
これからは一緒にいたいの
これでもっと自由に作れるでしょ
 
何言ってる?わけがわからない
俺の人生にそんな種類の間違い
どうしたって起こるわけがないのに
悪気があってしたことでもないし
 
むしろお前のためにしてたことだ
つまり誰からも愛されるような…
そんなのあたしのためじゃないわ
あなたがよく思われたいんだわ
 
ちょっと待てよ、そもそもお前が
俺を裏切ったのが先なんだからさ
謝りゃ忘れてやらなくもないんだ
何聴いてたの?さっき謝ったわ
 
涙の乾いた冷ややかな目で
いいの、無理に忘れてくれなくて
こういう終わり方の映画はきらい
昔笑ってその話もしたはずなのに

迷子と道案内

振り返ったそのちっちゃい子は
泣いていたらしかった
まずい時に声をかけちまったな
ひと違いだと誤魔化すか迷った
 
なあに?
っと…今大丈夫?訊いてもいい?
誘拐犯と間違われないように
努めて聞こえよがしにハキハキ
 
うん、いいよ
迷子になっちゃったんだけど
おもちゃ屋さん探してるんだよ
ふうん、おとななのにヘンなの
 
う、うん、欲しいのがあってさ
多分、この近くだと思うんだ
んーと、みっちゃんちかなあ
みっちゃんち…お店の名前は?
 
わかんない、みっちゃんち
連れてってもらってもいい?
あ、お母さんに言う方がいい?
おかあさんなんてしらない
 
口を結んでリボンをいじると
小鼻をきゅっと縮めそむける顔
余計なこと言っちまったのかも
でもな、下手に心配かけるのも
 
ああもう女子はめんどくさい
俺が泣かしてるみたいだし…
ありがと助かった、もういい
なにいってんだかわかんない
 
おとなってすぐもういいって
なんでそういうの?なんで?
溢れだす三秒前、途方に暮れ
差し出すかやめるか震える両手