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Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

父の父

 

ママ、次は水色のワンピース買ってよ
見合いで来た娘が母親と話していたと
彼のお父様は苦々しげに笑った
大きめの方眼紙に鉛筆で描いた
ジャン・ギャバンの絵も見せてくれた
 
他で決まってしまうといけないって
うちのひとが言うものだからね
彼のお母様があからさまに渋々と
釣書片手に現れたのはその少し後
 
息子さんとやらは放射線技師
松山に赴任中で会ったことがない
アンタが一応大学を出ているのに
相手さんが短大卒ってのもねえ
うちの母は母で渋りつつ首を傾げ
 
どうもすみません、遅れました
なんだか貧相でおとなしいひとだな
ひとまず何度か二人で出かけた
ある日映画を観て一緒に帰ったら
お父様が天ぷらを前に待っていた
 
もう食べたかね、夕飯は
カレーを…これお父様がされたんですか
お父様は目で頷き、彼がへえ、と驚く
まあ…、それじゃ、いただきます
 
お母様は濃い化粧で帰って来るなり
何さ、普段こんなことしやしないのに
女の子が遅くまでいるのも非常識
呆れて不機嫌にバス停まで見送り
 
後で彼が言うには、映画の後に
ガラの悪いのに絡まれかけた時に
面白いことを言ったのが決め手らしい
何を言ったのだか全く憶えていない
 
話がまとまりかけた時
お父様は急に倒れひと月で亡くなり
先に結納か、喪の後に仕切り直し
ドタバタ結納の後には嫁姑のしこり
 
その姑も見送り、結婚四十年近く
娘はお父様にもどこかしら似ている