昼のカフェポッド
窓際のテーブルから「ちっ」と舌打ち
読みかけの文庫本から目を上げて窺うと
まだ若いサラリーマン風の縞のネクタイ
彼は今時のモバイルフォンを耳から離し
表面をせっかちに指で叩いてしばし睨み
一分と待たず耳に当て、宙で踵を踏む
この喫茶店は小体で客もあまりおらず
何故潰れないのかは不思議なのだが
気楽で立ち寄りやすく長く重宝している
私の待ち合わせの相手はまだ来ないが
いつものことなのであまり心配しない
彼の前にはデミタスカップとカレー半分
怒っていると味が分からないよなあ
ここのカレーはなかなか食わせるんだぞ
エスプレッソマシンはいつ来てもピカピカ
何度目かのトライで彼の電話が繋がる
「あっ…もしもし、お世話になっております!
ナナオカ製作所の、トミタと申しますが」
中腰になって何度も頭を下げ腕時計を見て
では三時に必ず伺います、と電話を切ると
腰掛け背を丸め、やっと残りを口に運ぶ
マスターはお盆を持って一瞬つま先立ち
水のおかわりを載せてゆっくり近付いてきて
それぞれのテーブルに置くと私に目礼し
「ごゆっくりどうぞぉ」
お盆でハンドル切りつつ戻ってゆく背中
カランコロンと開くドアの横にベンジャミン
目が合い、手を合わせた赤い顔がペコリ
「いらっしゃいませぇ」