Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

ごんべえの親

 

「私、これだけはソラで言えるのよね」
わっほいきゃほいそうらんみょうととんきぽんきなんてんぼう
しゃあもうつぅれいこうせいだいぐわろんほろんとっぴっぴ
そんだらもんやののんぜやこきくこけかくきまぁるまる
ちょろちょろべぇのちょうえぃもん やあい
歌うように一気に言い切って悪戯っぽい目で笑う
「なんだ、それ?」
「ひとの名前なの。子どもの時に読んだ言葉遊び」
「ああ、寿限無みたいなやつ」

妻は中空に目を泳がせながら
「確かねえ、最初の子にちょんって名を付けたら早死にして、
次の子は長生きするようにって長い名前をつけたんだけど
その子がある日、川に落ちちゃって」
「うん」
「それを助けようとした友達とか親とかが皆フルネームで
呼んだもんだから、間に合わなくてまた死んじゃうの」
「ひでえ話だな。ちょうえもんとか、適当に略しゃいいだろ」
「ホントよね。でも私、何度も言いながら笑いこけてたわ」

妻が洗いものに立ってから考える
その話、テーマとか教訓があるとしたら何なんだろう
長々まどろっこしいのもほどほどに?
融通や柔軟性が大事?正確なだけじゃダメ?
非常時の伝達は簡潔明瞭かつ必要最小限で?

…まあ、言うのが面白いから子どもは好きなんだろうな
ミックスナッツとお中元のビールで振り返る今日一日

納入した機械が止まったと得意先から電話
不具合報告、契約確認、経理仮払、製造に話を通せ
出張稟議に判を押す部長は今日に限って接待ゴルフ
結局未解決、謝り疲れ、日差しにふらつき自販機へ
俺は、タイミングよく現れて川から救い出す役がいい

「ったく…わっほい、きゃほい…おい、続きなんだっけ?」
「なあに、あなたも憶えるの?」
嬉々として、得意そうに何度も唱えてみせた後
「でも、私に子どもが産めたら、さすがにつけないわ」
ショボン、と口で言いながら、妻はおどけて肩をすくめ
やたら硬いジャイアントコーンに俺の顎はぐきりとなる