Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

裏打ちの受動

川に沿って走る在来線で
近いようで遠いところへ
性懲りもなくのこのこきて
手もなく元気になるわけで
 
いつもと違う何かってのは
周りについたのりしろが
とりわけ厄介に見えるんだ
欲など出すんじゃなかった
 
叶わない方が気が楽だし
疲れるから何もいらない
たらればの先は知らない
他のこともそうじゃない?
 
げんなりすると嘆くけど
稀な失敗だってあるけれど
今いたカラスは笑い顔
生きてるってそういうこと
 
存在する価値なんてない
死んだほうがましの耳鳴り
まあまあまあ 待ちなさい
ヒーローだけじゃ救えない
 
誰の助けにもなれないと
適性をすぐに見限るよりも
助けたいと奮った余力ごと
助かった側にもなれるだろ
 
未来が見えないやつがいる
暗い未来がはっきり見える
そういう不運なひともいる
どちらともわからない希望
 
次に笑うか泣くかも知らない
塗り重ねた最後を見ていたい
笑い声と拍手になるために
それぞれに運ばれてある命

ものわかりの子

指折り数えて待っていた
母の一時帰宅は延期になった
仕方ないでしょ やだああ
とんもころし抱えて地団駄
 
一緒になだめて一緒に泣く
自分の中の子どもが大人ぶる
世の中そういうもんだろう
ままならないことだってある
 
どうしていやなの?
いやだからいやなの
そんなの理由になんないよ
りゆうわかんない もおお
 
眉をひそめる優等生
世間知らずの品行方正
ふりかざして叱りつけたい
迷惑でしょ 我慢しなさい
 
もしかして忘れちゃったの
みんなの中にもいるんだよ
話が通じない泣き虫さんと
感情むき出しのはだかんぼ
 
信じられない あり得ない
許せない 罰が当たればいい
あれ もしかしてそっち?
幼稚園児に戻るスイッチ
 
98点の答案の2点にあーあ
ひとの幸せにはうんざりだわ
スタンバイ済それみたことか
万馬券ばかり続くもんですか
 
どのみちおこちゃまならば
いやだからいやだの素直さは
よーしよしと許されながら
おぶわれて来たらせんの川

ポゼッションの沼

自分の家のはずなのに
どうしてこうも居心地が悪い
自分の妻子のはずなのに
どうしてこうも話が通じない
 
オフの日のはずなのに
なんだってこんなに忙しい
必ず返すって言ったじゃない
踏み倒されそうなへそくり
 
あなたはあたしのものでしょ
君も仕事をなくせばわかるよ
私の自由と青春を返してよ
何も持っては行けないあの世
 
ええい やめだやめだ
自分の所有物なんて考えは
ろくなことにならないからな
あれもこれも誰かのものさ
 
手放したくないと言うのは
自分のものだと思うからだ
いい思いをしたもんだから
損するような気がするのさ
 
全ての持ち主を固定したら
そこから何か生まれるのか
金庫にしまったお高い絵画
伝えたいことはなんだった
 
わらしべ長者にしたって
鼠穴にしたって 時間でさえ
取り替えなきゃはしたで
今の持ち物は何かになる前
 
ままならないことばかり
自分の人生を生きるべき?
そんなものは元々ないし
全部預かりと決めればいい

いたわりの隔たり

不義理をしている親戚の
電話をうっかり取ると
のっけに父の下着サイズと
若いひとは綿を着ない話と
 
連れ添いが先日旅立って
本人も癌の手術に肺の影
身辺整理の真っ最中で
新品の肌着が気になる目
 
大変でしたねと言ったら
へえもう…せえじゃけどな
まあ もうよう看たから
お父さんも長かったからな
 
父にレントゲンの話を訊く
それも目的だったらしく
携帯を薦めると苦笑いする
ナニしたらお金がかかろう
 
あんたはどうしよんで今
まだ車は二台持っとんかな
そりゃお父さんが大変じゃ
元気でおらにゃいけまあ
 
のそのそ入ってきた気配で
あ、母に代わりますんで
お悔やみも見舞いも半端で
ひとの電話を借りて待たせ
 
参列無用と気遣われた葬儀
母の不調解説の舌はよく回り
予定より早めに宅配が届き
受取は母とのルールがあり
 
またかけるわ ほんならな
二階で洗濯物を干しながら
今は亡き祖母にもらった
ロバのぬいぐるみをなでた

桜の前景

桜以外の花の名前は
そんなわかんねえんだよな
ウルトラマンの怪獣とか
動物なんかは得意だけどさ
 
私もお花屋さんのお花は
あんまりわかんないかな
小菊とかりんどうとか
買ってもお供えが多いから
 
桜はいろいろ感じやすいよ
咲き始めの夜の淡い香りも
蕾の濃さも雨風の心配も
犬の鼻先にくっつく花びらも
 
クラス替えとか就職とか
変化って好きじゃなかった
晴れ晴れって感じしないなあ
春はお葬式の記憶があるから
 
俺にも多分そういうの
あったんだと思うんだけど
どんちゃん騒ぎと目が合うと
見ないフリして逃げんだけど
 
咲いてる時の桜だけを
桜って言うのかなとも思うの
私は新緑も紅葉も好きよ
ひとも少ないし落ち着くの
 
バーベキューの煙と笑い声
子ども靴 車椅子の背もたれ
土手を走る自転車 止まる杖
つないだ手と手 細める目
 
桜をバックに思い出すのが
葬式じゃなくなるといいな
そのために何が出来るのか
汗ばんで見つめている後ろ姿

こもごもの野辺

あんまり準備がいいのも
なんだかどうもいやなんだと
子どもっぽいことを言う母も
葬儀屋に問い合わせる午後
 
百貨店とスーパーの間
本格的過ぎない婦人服売り場
似合うというのも変な感じだ
店員も気の毒そうに見送った
 
ちゃんと出番がやって来て
喪主の母は気丈に挨拶をして
口の悪い親戚が褒めた後で
手違いで届かない折り詰め
 
深山公園は花盛り花盛り
遺影を抱えてハイヤーに乗り
どんちゃんを横目に通り過ぎ
待合のパイプ椅子はひんやり
 
今日はよく晴れてよかったな
よかったってのも変だけどさ
ちょうどいい天気ってやつは
祝儀も不祝儀もないもんだ
 
その礼服で四回お通夜葬式
ひとの結婚式も同じくらい
夏はカーディガンを羽織り
明るい水色にコサージュに
 
お通夜で道に迷って苦笑した
結婚式の無茶振りで歌った
坊主の袈裟のポクポクの手が
ぼんてんで何度も虻を払った
 
今日はかなしいかうれしいか
泣きはらした喪服のおとな
卒園式の花束が見上げたら
やあおめでとう しっかりな

bothのモザイク

ひとが見ているんだから
ちゃんとしてなくちゃ
もういやだって言いたいな
テンション上がってないな
 
そのまんまむきだしても
怒られずにいられる場所
それぞれ持っているもの
なければこしらえるもの
 
表と裏、白と黒、0と1
ハイとロー、さあどっち?
決め付けたがりられたがり
ヒヨコでもあるまいし
 
デジカメの写真だって
ずーっと寄ったら画素で
離れて見たら誰かの笑顔で
どっちが見たいんだっけ
 
ある時は不機嫌そうな顔
またある時は眠そうな顔
しかしてその実態は、と
見やると鼻歌で犬の散歩
 
ビシっとタキシード
うろつくパンツいっちょ
健やかなる時も病める時も
どれも同じそのひとでしょ
 
もうなんか今日はダメだ
ずっとなんじゃないかな
もうやなんだろ俺なんか
まあまあ はいお茶
 
お腹痛い 触んないで
たまに虚しくなるのよね
イヤならもうほっといて
まあまあ 団子食えって