Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

星空の空蝉

もういいわよ
そう言ったかもしれないけど
笑い者になるためじゃないの
聴かなかったことにしてよ
 
手応えがないからって
鈍感だからわからせようって
これみよがしに踏まないで
だったらもうあれはなしで
 
消えることだってあるのよ
椰子の実が落ちてくるかもよ
命は自分のものじゃないけど
借りものだって壊れるでしょ
 
そっちこそヤなこと言うな?
あなたには言ってないわ
あなたの話だっていつ言った?
冗談半分でやってるだけだわ
 
人聞きのいいことばっかり
言わなくていいから嘘はいい
いい子ぶればいいじゃない?
なでなでしておもらいなさい
 
物騒なことは抜きにしても
最近見ないなってあるでしょ
忙しいのかな、飽きたのかも
あなたは何ひとつわかんないの
 
あなたの中ではいつまでも
変わらず目を輝かせたままなの
その方が楽に決まってるわよ
怖くてやってらんないもの
 
一軒一軒 遠い夜景のために
教会も役場も工場も灯す窓明り
ひとり消えふたり消え虚ろな光
それならそれでしょうがない?

売り文句vs不随意

びいびい泣いてるよりは
涙をこらえる仕草の方が
グッとくるもんじゃねえか
先に泣かれちまうとなあ
 
そういうもんですかね
僕は結構泣けますけどね
その泣けるって文句も苦手
そんなこと言われたって…
 
ひとに泣かせてもらわなきゃ
泣けねえやつは恵まれてんな
ほら、デトックスだなんだ
わかるよ、需要があんのは
 
俺は何もその満足だとか
作り手の努力とか悩みだとか
茶化してるわけじゃねえんだ
飯が食えねえやつはだめだ
 
じゃあなんです
上げ膳据え膳のお約束
そうなるとわかってる保証
俺ぁそういうのが癪に障る
 
まあ損はしたくないですよ
選ぶんなら星が多いもの
評判を見て金出すもんでしょ
だろうな、俺はどうも…
 
いいの悪いのじゃねえんだ
俺が天邪鬼なんだろうな
笑えますか泣けますか
俺の顔色うかがわれてもな
 
手加減なしの全力なら
まずくたって構わねえんだ
泣くサービスならいらねえや
我が涙に戸惑いてえんだ俺は

涙は涙、今は今

思い出したくもないことが
変えた生活があちらこちら
何もかもなくしました
思わぬ出合いがありました
 
禍福はあざなえる縄のごとし
わけわかんねえと思うかい?
三十も歳を取ればわかるよ君
なんだって永遠には続かない
 
手の中にあるうちから
そんなにありがたがってた?
ほら、よくあるじゃないか
閉店と知った途端の大行列だ
 
否応なく奪われると思うと
なんでも惜しくなるもんだよ
なくしてしまった後もずっと
あっちの方がよかったのにと
 
時を止める呪文も浮かばず
若さも人脈も仕事もなくす
手ぶらで命の幕を下ろす
まだピンとこないだろう
 
変わらず続くものなんて
なんにもないのが救いだね
いいことだけ悪いことだけ
額縁に入れて見ている涙目
 
三十年後に
何やってんだと笑えればいい
序の口だよ、今もっときつい
それならそれでも構わない
 
墓まで持って行くとしても
持って死ねやしないんだよ
今ある心は今だけのもの
熱々にハナすすり口を火傷

下衆なツレ

ほんで自分嫁はんとは?
何が?
言わしてもらうけどな
しゃんと夜相手してんのか
 
落としかける発泡酒の缶
いきなり何訊いとんねん
いやちゃうねんちゃうねん
いうか他やったら言うやん
 
他て何がや
もっとえげつないシモやら
聴いてられへんノロケやら
確かに…て、やかましわ!
 
せやのにそっち方面の話
具体的に一回も聴かへんし
なんなんそれ 聖域?
最近なんや様子おかしない?
 
普通そんなん言わへんやろ
他も言わんのやったらまだしも
そこ抜きでノロケにドシモ
たまってもうてんちゃうの?
 
しゃっちょこばった場ァなら
俺かてそんな言われへんけどな
サシでも一回も聴いてへんから
なんぞ悩みでもあるんちゃうか
 
お前が酔うて忘れとるだけや
そらすまん、ほな今聴くわ
…言いたないことかてあるわ
俺かて聴きたないのあるわ
 
ひとりもんのコケ生えかけや
シモは歓迎、ノロケいらんわ
自慢やったらエロいのもくれや
やかましなァ、もうええわ

つくるひとの時間

もうかれこれ二時間も
口をとがらせてごちょごちょ
何をやっているんだろ
訊きたいけど黙っているの
 
眉間にぎゅっと皺を寄せて
手元にじいっと目を寄せて
寄り目になってヘンな顔で
吹き出しそうになって
 
梅が見頃なんだけどな
まあいいや
私もなんか作ろうかな
覗き込む冷蔵庫の中
 
昨日特売だったカキと
小松菜と大根と卵
玉子とじでもいいけど
お揚げがある方がいいかも
 
カキはニンニクで炒めて
小松菜はお味噌汁にして
卵を落とすか焼くかして
大根は炊いて田楽みそで
 
洗いながらふと見たら
とんがり口 丸めた背中
よっぽど楽しいんだろな
ざくざく刻んで皮をむいた
 
うーん、と伸びをしてから
うまそうな匂いしてんな
あ、卵かけで食いたいな
そう?あ、お茶淹れようか
 
ここの端っこのとこがなあ
ぴたっとくっつかなくてさ
結局よくはわからないまま
向き合う時間を食べ終えた

牽制ノーヒット

正しくても間違ってても
悔やむ時は悔やむものよ
理屈とはまた別のこと
どっちの道も選ばないの?
 
腹が立ったと言いふらし
信じられぬとほのめかし
それでもいいひとでいたい
めんどくさいのはもういい
 
一度も間違ってないんだ
堂々と責めていいはずだ
これでも手加減してるんだ
感謝されてもいいはずだ
 
さあそれで誰が救われる?
その手は何を守り抜く
間違いに怯えるひとも泣く
間違えられないひとも泣く
 
ああ好かれたい好かれたい
自分は誰も好きじゃない
だって何も言われてないし
好かれてないなら別にいい
 
ではそっちを守りましょう
それしかないんでしょう
自分がそうしたいんだろう
それとこれとは違います
 
四球からの走塁で死ねば
あーあ それ見たことか
牽制がそれたってエラー
記録はまだ狙えるかもな
 
ダブルプレイでアウト
電車がなくなっちまうよ
ドラマがズレるじゃないの

時系列の舟

あの頃は楽しかったよな
恋人もいて若くて元気でさ
その前は学生証で大概通った
今思えばそこそこ優遇された
 
それは嘘でもないけれど
戻りたいとは思わないよ
だって終わったことだもの
茶漉しを通ったあとだもの
 
角が取れて丸っこくて
すべっとした石ころを拾って
転がる岩だった鬱屈なんて
そのうち忘れてゆくわけで
 
アオサギが見下ろす川面
淀みも魚影も照り返しも
ひっくるめてひとつのもの
切り出せないし戻せないよ
 
あの時もっとこうしていれば
もっと若くて勇気があれば
そっちをなでてもいいけどさ
その時はそうしたわけだから
 
あの時ああしていなければ
あいつさえいなければ今頃は
最近は忘れっぽいもんだから
恨み悔やみの余力がないや
 
いつか自信が持てるなんて
思ってるんじゃないだろうね
あの世じゃ大抵はじめまして
行けども行けども覚束ない舟
 
ぽうっと首を傾げる子どもも
明日目覚めるおとなの自分も
これから知ることがあるよ
怖いかい? つかまってろ