Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

グラシン越しの十年

パン屋のコックスーツの下に
前のツアーTシャツを着て開演ギリギリ
いろいろあったけど今は一人暮らし
お陰様で社会復帰のお礼参り
 
それがかれこれ十年前のことで
またそれからいろいろあって
不甲斐ない苦し紛れの乱高下
恥をかいてどうやら命拾いをして
 
デニッシュの甘やかな香りに
条件反射で息が詰まることもなくなり
パン屋のパンは昔のようにおいしい
そうして学んだことはぽつりぽつり
 
あったかいものを丁寧に手渡し
喜ぶひとの顔を見て笑ってみたい
同じ動機のひともいるかもしれない
他の何かを受け取る時もそう思いたい
 
あの暮れ方、店の前の横断歩道を
どうでもいい俯き加減で渡っていると
ちょっ、あっぶないって!車来てるよ
毎日しらけた目で叱る若い先輩のひと
 
その頃はひとの顔なんて見ていなくて
それどころか自分の足元も見えなくて
ふうん心配してくれるなんてとひねくれ
死んだ方が清々するとは思わないのね
 
今は自分がスーパーの客となり
バイトの細っこい男子がカートでよろめき
無造作に品出しをしていても気にしない
レジのおばちゃんが無愛想でも構わない
 
うんざりすることはちっとも珍しくない
欲しいものがあったり人恋しかったり
元々は笑いたいから始めたんじゃない?
どうでも味方したい倦怠 あなたは偉い