Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

ブタの貯金箱

 

三万あれば
会わせてやらないでもないが
アンタのようなおこちゃまには
到底無理な相談だろうな
 
漫画のヒーローに会いたいと
風来坊が姪に訊かれた時のこと
姪は思いつめた目でうつむき
顔を上げてやってみますと言い
おこづかいをためます
おとしだまののこりもとっておきます
あとシールとおりがみガマンします
 
絵に描いたようなブタの貯金箱に
少しずつお金は溜まっていき
肩たたきに家のお手伝いと
かいがいしい姪には親のオマケも
 
姪が母親にすぐ借りたなら
最近渋って貸さぬ兄嫁への腹いせに
くすねてトンズラと決めていたのに
行くたび姪はブタを抱っこして現れた
 
風来坊は観念してそれとなく
お目当てのヒーローを詳しく聞き出す
おじさん、よくしらないの?
あ、いや、間違うといけねえからよ
 
鉛筆で広告の裏につけた小遣い帳と
ずっしり重いブタの貯金箱を受け取ると
大学時代の友人の劇団員が
夜なべで衣装を整えてやって来た
昔こいつにも借金したままだから
少しは義理も果たせるというものだ
 
姪はとても嬉しそうに出迎えて
あれこれ尋ねたが劇団員は困って
オイ、そんなこと聞いてないったら
この子が元々知らねえことまではな…
聴こえなかったようできょとんとした
 
ボロが出ないうちに切符を持たせ帰す
姪はほっぺたに両手をあてて言う
きっとね、はずかしがりやさんなのよ
おはなしするのとくいじゃないのかも
おてつだいでほめられるとたのしいの
おじさん、ありがと
 
風来坊は咳込んで鼻をすすって
ヒーローは金なんか取らねえ
中身を元に戻してやるから
このブタ、ちょっと預からせてくれな