Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

サイド・チェンジ

誰それの身にもなれよな
はあ…あなたはどなた様?
応援してんだ気の毒だから
ははあ、それはそれは
 
どこかの誰かの身になると
言えないことばかりだよ
足が太いのが悩みなの
これ、義足なんですけど?
 
父が浮気ばっかしてて
あたし、母子家庭なんで
主人の寝言がひどくてねえ
妻は三年前に他界して…
 
ああ頭がどうにかなりそう
私、精神科に通ってます
子どもが反抗期で困ります
お金かかるのよ不妊治療…
 
そんなこと言われたんじゃ
喋れなくなっちゃうしさ
弱いひとだって傷つけるさ
不完全な言葉はお互い様
 
でもうっかりじゃなくて
わざとの時もあるよね
嘘だよ気付かないなんて
落ち込む顔が見たいだけ
 
気色ばんだらときめいて
しばらくはおとなしくして
また軽く甘噛みしてみて
やりすぎたか、やっべえ
 
誰が泣こうと笑おうと
言いたいことだけ言えよ
嘘なら出来のよい嘘を
ほんものは明日も同じ色

無理の向こう側

向かい合わせで並ぶロッカー
あたしは陰でべそべそ泣いた
なんでだかよくわからなかった
なんかもういろいろ無理だった
 
パン屋の社長のおかみさんが
心配そうに立って見てたから
すみませんって頭下げた
足引っ張ってばっかだからさ
 
油で荒れた手と北国の訛りでさ
背中をポンポン叩いて言うんだ
役に立つか立たないかは
アンタが決めなくていいから
 
その時はピンとこなくてね
だって誰がどう見たって
出来てないのはあたしだけで
思い込んでるつもりもなくて
 
でもさ 後で考えると
あたしがそうとは言わないけど
謝るようなひとはまだましなの
迷惑なひとは急にいなくなるの
 
待ちに待った後釜に引き継ぐ
どうにか辞めて実家で休養中
電話が鳴る それで調子どう?
よくなったら来られそう?
 
まあひと来ないだけだけどさ
邪魔ってわけでもなかったのか
ってのはその時やっとわかった
勝手に潰れて壊れちゃったな
 
自分で見切るって傲慢かもよ
カッコいいかもしんないけど
潔さってたまに迷惑らしいのよ
でもじゃあ誰が決めるんだろ

葉っぱとお金

安くて質はイマイチで不格好で
でもがんばって作りましたんで
うーん まあ気の毒だからね
ひとつでいいよ お大事にね
 
いいものを丁寧に作るからには
時間も腕前もケチっちゃダメだ
そうよね モノはよくなくちゃ
じゃあ頂くわ よく働いたから
 
何事も使いどころはむずかしい
お金の出どこもひとつじゃない
ひとに出し渋るのはカッコ悪い
よく振る舞うためにひねり出し
 
亭主のお金で奢られるのって
悪いけどなんか凹むんだよね
それもあんな高そうなお店で
私自分で稼いでんだし払うって
 
使わないからえらいわけでも
使うからえらいわけでもないよ
たまたま財布が自分のものでも
世が世なら席を取られたのかも
 
わけのわからないバカなことに
全額ベットしてたって勝手だし
お金に変えられる時間を元手に
人知れぬ何かと引き換えでいい
 
元も子もないって言うけれど
元が見た目お金じゃなくても
いいならいいんじゃないの?
どうにか生きてりゃ御の字だよ
 
先に脱落したひとがいなくちゃ
席なんて空いてやしなかった
上だの下だのどうでもいいや
対等じゃなくてもまあいいや

星空の空蝉

もういいわよ
そう言ったかもしれないけど
笑い者になるためじゃないの
聴かなかったことにしてよ
 
手応えがないからって
鈍感だからわからせようって
これみよがしに踏まないで
だったらもうあれはなしで
 
消えることだってあるのよ
椰子の実が落ちてくるかもよ
命は自分のものじゃないけど
借りものだって壊れるでしょ
 
そっちこそヤなこと言うな?
あなたには言ってないわ
あなたの話だっていつ言った?
冗談半分でやってるだけだわ
 
人聞きのいいことばっかり
言わなくていいから嘘はいい
いい子ぶればいいじゃない?
なでなでしておもらいなさい
 
物騒なことは抜きにしても
最近見ないなってあるでしょ
忙しいのかな、飽きたのかも
あなたは何ひとつわかんないの
 
あなたの中ではいつまでも
変わらず目を輝かせたままなの
その方が楽に決まってるわよ
怖くてやってらんないもの
 
一軒一軒 遠い夜景のために
教会も役場も工場も灯す窓明り
ひとり消えふたり消え虚ろな光
それならそれでしょうがない?

売り文句vs不随意

びいびい泣いてるよりは
涙をこらえる仕草の方が
グッとくるもんじゃねえか
先に泣かれちまうとなあ
 
そういうもんですかね
僕は結構泣けますけどね
その泣けるって文句も苦手
そんなこと言われたって…
 
ひとに泣かせてもらわなきゃ
泣けねえやつは恵まれてんな
ほら、デトックスだなんだ
わかるよ、需要があんのは
 
俺は何もその満足だとか
作り手の努力とか悩みだとか
茶化してるわけじゃねえんだ
飯が食えねえやつはだめだ
 
じゃあなんです
上げ膳据え膳のお約束
そうなるとわかってる保証
俺ぁそういうのが癪に障る
 
まあ損はしたくないですよ
選ぶんなら星が多いもの
評判を見て金出すもんでしょ
だろうな、俺はどうも…
 
いいの悪いのじゃねえんだ
俺が天邪鬼なんだろうな
笑えますか泣けますか
俺の顔色うかがわれてもな
 
手加減なしの全力なら
まずくたって構わねえんだ
泣くサービスならいらねえや
我が涙に戸惑いてえんだ俺は

涙は涙、今は今

思い出したくもないことが
変えた生活があちらこちら
何もかもなくしました
思わぬ出合いがありました
 
禍福はあざなえる縄のごとし
わけわかんねえと思うかい?
三十も歳を取ればわかるよ君
なんだって永遠には続かない
 
手の中にあるうちから
そんなにありがたがってた?
ほら、よくあるじゃないか
閉店と知った途端の大行列だ
 
否応なく奪われると思うと
なんでも惜しくなるもんだよ
なくしてしまった後もずっと
あっちの方がよかったのにと
 
時を止める呪文も浮かばず
若さも人脈も仕事もなくす
手ぶらで命の幕を下ろす
まだピンとこないだろう
 
変わらず続くものなんて
なんにもないのが救いだね
いいことだけ悪いことだけ
額縁に入れて見ている涙目
 
三十年後に
何やってんだと笑えればいい
序の口だよ、今もっときつい
それならそれでも構わない
 
墓まで持って行くとしても
持って死ねやしないんだよ
今ある心は今だけのもの
熱々にハナすすり口を火傷

下衆なツレ

ほんで自分嫁はんとは?
何が?
言わしてもらうけどな
しゃんと夜相手してんのか
 
落としかける発泡酒の缶
いきなり何訊いとんねん
いやちゃうねんちゃうねん
いうか他やったら言うやん
 
他て何がや
もっとえげつないシモやら
聴いてられへんノロケやら
確かに…て、やかましわ!
 
せやのにそっち方面の話
具体的に一回も聴かへんし
なんなんそれ 聖域?
最近なんや様子おかしない?
 
普通そんなん言わへんやろ
他も言わんのやったらまだしも
そこ抜きでノロケにドシモ
たまってもうてんちゃうの?
 
しゃっちょこばった場ァなら
俺かてそんな言われへんけどな
サシでも一回も聴いてへんから
なんぞ悩みでもあるんちゃうか
 
お前が酔うて忘れとるだけや
そらすまん、ほな今聴くわ
…言いたないことかてあるわ
俺かて聴きたないのあるわ
 
ひとりもんのコケ生えかけや
シモは歓迎、ノロケいらんわ
自慢やったらエロいのもくれや
やかましなァ、もうええわ