Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

ハッピーと少数派

おめでとうと笑ったひとは
帰ってカップ麺を食うんだ
おめでとうと笑ったひとは
残業夜泣きで寝てないんだ
 
お祝いを言われたひとも
うれしい一色とは限らないよ
祝われたい気分じゃないの
お礼するだけでもつらいの
 
誰もわかってくれないって
お互いに心で舌打ちしたって
ありがとうございますって
口では言う おとなだからね
 
いろいろあるけどおめでとう
いろいろあるけどありがとう
落ち着いて考えたらわかる
ほんとうは言う前からわかる
 
やせ我慢はひとにやさしい
武士は食わねど高楊枝
それがいいな いい歳だし
でもたまには正直でもいい
 
二十年くらい経ったある朝
自分から見たら若いひとが
めでたかないってむずかるさ
それ知ってるよ さあ出番だ
 
いつか きっといつか
そのめんどくさいやさぐれが
味方の少ない心を照らすから
別に得なこともないけどさ
 
みんなが通って来たことは
誰かがどうにかするものさ
こんな気持ちは自分だけか?
それ、ずっと大事に持ってな

生みつ生まれつ

おふくろが同じ誕生日で
ちっちゃい頃はうれしくて
俺が何歳だから何歳だって
あちこちで言いふらして
 
今考えたらおふくろも若い
十以上下だよ、今の俺より
なんかいやだったらしい
しないでくれる?歳の話
 
昔のやなことも思い出すし
派手に祝われてもアレだし
祝われなきゃまた滅入るし
もういっそなきゃいいのに
 
歳とんの怖えんだよな
特に節目な 落ち込むんだ
通り過ぎたひとに訊いたら
楽になる時もあんだけどさ
 
あの、お母様もなんでしょ?
何が?歳とりたくないこと?
それもかもだけど、誕生日よ
ああ、後から変わんねえだろ
 
反抗期が今のあなたと同じ
あぁー、それきっつい
祝われず祝えず立ち去り…
追っ払ったな、確かに
 
自業自得だっつうんだろ
親孝行しなかった報いだよ
だって、お元気でしょ?
まあ多分そうだと思うけど
 
あなたも体は元気でしょ
あちこちガタは来てるけど…
休まず倒れず働いてるわ
親孝行でなきゃなんなの?

エンタメと野暮天

それって矛盾してるよね
そんなこと言ってたっけ?
え、最終的に選ぶのそれ?
常識ならありえないって
 
証拠品を山積みにしてさ
ドーダって睨みつけたんだ
そしたらしょんぼりしてた
悪いことしちゃったかな
 
振り向く医者の深刻な表情
余命いくばくもない主人公
固唾をのむ私の隣で父が言う
レントゲンに癌がない情報
 
もう、いいとこだったのに
余計なこと言わなくていい
とにかく、ないもんはない
いいんだって、ドラマだし
 
セピアの昭和ノスタルジー
あったあったと盛り上がり
恋の行方に思いを馳せた時
あれもCGかな?で我に返り
 
あのさあ、わざとなの?
野暮なこと言わないでよ
目をつぶって感じてこその
エンターテイメント
 
父はきょとんとしてたけど
おんなじことしてたんだわ
元々正解が知りたかった?
楽しい時間が欲しかった
 
楽しませようとしてんでしょ
粗探しなんてつまんないわよ
いいとこ見つけるのが才能よ
薪をくべるからあったかいの

表情の裏地

仏頂面で写真に収まった
若い父を笑うと父は言った
男が歯を見せて笑うな
昔はそう言われたもんだ
 
喜怒哀楽
生きてりゃいろいろある
何かというと全米は泣く
涙が本気を担保する
 
嘘だとは言わないけど
多分それだけじゃないよ
誰にでも裸は見せないだろ
見せない心もあるんだよ
 
予想通りに頂いた感動は
よそ行きの一張羅
カッコ悪いって照れながら
カッコつけてるものなのさ
 
あたりを戸惑わせる素直
こんなはずじゃなかったけど
みっともないんだろうけど
どうしようもないんだよ
 
うれしいのにすましていたり
頭にきたけど苦笑いしたり
涙目を慌てて誤魔化したり
そっちもあやしていたい
 
意地っ張りも見栄っ張りも
疑り深さもさみしがりも
あばたでもえくぼでも
ひっくるめてひとりだろ
 
目に見えない方の涙の
しょっぱさのしみとおる喉
好きなように泣けばいいよ
好きな顔で笑えばいいよ

スカーフとストール

全然違う作品で
同じようなことがあって
ああ誰でもイヤなのねって
思ったことがあったのよね
 
ふうん、どんなの?
愛人にあげて断られたものを
本妻や本命の恋人に渡す男
あー、それはサイアクでしょ
 
やっぱりそう思う?
緑のスカーフと赤いストール
絵もはっきり思い出しちゃう
あたしだったら目の前で破る
 
それがそうでもないのよねえ
使ってるの まあいいかって
ええー、なんで?
私もよくわかんなくって
 
どっちの気持ちも謎だけど
男の側はきょうだい多いかも
だからなんでなのよ
お下がり慣れじゃないの?
 
独創的な情状酌量ねえ
自分用じゃないのが当たり前
イヤだったのも忘れちゃって
ひとも平気と思うのかなって
 
女はまあ、男が戻る話だから
余裕なんじゃないかと思うの
私はどっちの立場になっても
要りませんって言うつもりよ
 
贈り物って 相手のことだけ
考え続けた時間を渡すもので
ないわよ ものに意味なんて
あなた一人っ子だからかもね

今のは誰の話

もう、しつっこいわね
何度もおんなじこと言って
言わせてんのはお前だよお前
頼むから事実だけ言ってくれ
 
ひとつ隣のベンチでは
女の子が赤い靴をぶらぶら
こら、お行儀よくしてな
あのひとおこってんのかな?
 
ひとを指さすもんじゃないよ
おとなだって怒る時は怒るの
しってるよ おとうさんも
俺のは違うよ 叱ってんの
 
どうちがうの、に割って入る
着信音に二人は口をつぐむ
しばしあって男の声がする
嘘のように上機嫌な調子
 
お世話になってますどうも
え?全っ然構わないですよォ
今ですか?ひとりですけど…
ねえねえどうしたのあのひと
 
下品だぞ、盗み聞きってのは
だってあのひとがヘンだから
心配だろ?喧嘩の話なんてさ
じゃあ、あのおねえさんは?
 
そっぽを向きイヤホンの耳
男は背を向けてのびのび笑い
通話を終えて深く溜息をつき
ったくしつこいな、話長えし
 
なんだよ、何笑ってんだよ
…え?ああ、話終わったの?
あなたを笑ってやしないわよ
女の子の???と父親の横顔

死ぬよりいやがること

本人の意思を尊重することと
客観的に適切であることと
自分がこうしたいと思うこと
なかなか一致しないもんだよ
 
例えばね、うちの母は
昔から病院が大嫌いなんだ
父は病院勤めをしたのにさ
そんなことはお構いなしだ
 
調子が悪いと本人も言うし
どうにかしなきゃいけない
何故か不機嫌に詰問する父
母は頑として何もさせない
 
ヨタヨタする曲がった背中
ただ見守るしか出来ないんだ
知らないひとは怒るだろうが
それは母と他人だからだ
 
最近サボってたマッサージ
自分を責めつつ念入りに肩腰
クマのぬいぐるみみたいに
足を投げ出す母にひと匙給仕
 
蒸しタオルを端切れで巻いて
脇の下をあっため話しかけ
ブランケットをはらいのけ
寝ている母をただ見ている目
 
何やってんだと思うだろ?
後悔しても知らねえぞ
言われなくてもわかってるよ
医療畑の人間も親だもの
 
昨日よりだいぶ楽になったわ
のらりくらりいつまで続くか
誰にだって手をこまぬく穴
不安をひとのせいにはするな