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Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

残夢レイヤー

立てかけた大看板と取っ組みあっているおじさんを
僕はいつも寄り道をして眺めていた

ランドセルも制服もぶかぶかしてどこかしらズレる

まだずっと小さな頃の話だ


おじさんは長机のお化けの上に立ってはしゃがみ

頭に手ぬぐいを巻いて大きなハケを操っていた

たまに胡散臭そうにジロリ、ガキじゃしょうがねえな

そんな顔をして肩をすくめ、また背を向けた


通って五日ほど経った頃

「おい、坊主。俺に何か用でもあんのか?」

「う、ううん」

「じゃあ何してる。おっかさんが待ってっだろ」

「おかあさん、パートでまだかえんないの」

「いたきゃいてもいいけどよ、つまんねえだろ」

「ううん。ぼく、えがヘタなの。すっごいなっておもって」


ふへえ、というような声を出しておじさんは初めて笑った

僕はつっかえつっかえ、どうしてこういう風に描けるのか

これは出来上がったら最後はどうなるのかを訊ねた

元の宣伝写真をもらってよおくとっくり見てから描く

封切前に仕上げ、ハネたら塗り潰して次を描く


「なんだかもったいないんだね。さみしくないの?」

「そういうもんさ。滅多なものは残らねえもんだよ」

「なくなっちゃうならテキトーでいいやってならない?」

「俺にゃこれきり、描いてりゃ飯も忘れちまう性分だ」

「ふうん…」

「出来ちまったら、俺のもんじゃねえってこったろ」


僕は大人になって、グラフィック何某と名乗る職に就いた

手で描くのは今でも正直そんなに得意じゃないけれど

画面で絵をいじくってカッコつけるようなことで生きている


あの時のおじさんの言葉は、呆れるほど正直だと知る

だからさみしいと感じた子どもの頃の僕と

見ていた僕をつまらないだろうと案じたおじさんには

どこかで今の僕を不思議そうに見ていて欲しい