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Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

よろしゅうおあがり

元々ホテルでシェフをやってまして
なんだかんだあって拾ってもらって
他に取り柄もないもんですからね
ま、どうにかやってるんですここで
 
コックスーツに山高帽
ちょっと不似合いな惣菜屋の店頭
両手に抱えた大皿から湯気が上がる
浮かない顔に母は相槌を打つ
 
家で食べながらぶつぶつ言う母
見た目はまあまあだけどイマイチかな
ないですよ、自分で味見ることなんか
私にそう言うのよ、どうかと思うわ
 
そのひとも辞めて、店もなくなって
慣れないご飯調達、母は青筋立てて
あんた達、私が今まで何を思って
おかず買ってきたかわかんないのね?
 
本当にさっぱりわからなくて困り果て
悔しくて泣きながら訊いたら呆れて
みんなが何食べたいか、どんだけ…
私が何食べたいか、考えてこれ?
 
その後台所にも立ってから腑に落ちる
食べる顔が浮かばない食事は不味く
自分ひとり分ではおいしさが虚しく
「うまいな」にはついガッツポーズ
 
今でも出来合いにはお世話になりつつ
作る時はおいしいなぁに向かって作る
おいしく出来ましたと手渡されたはず
選ぶからにはそう思い込んで買ってくる
 
洗い物の山の前で腰を伸ばしつつ
厨房に去っていく山高帽を浮かべる
その場でおいしいと言ってもらえず
作るのつらかったろうな、とふと思う