Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

ホワイトクロス

 

「いらっしゃいませ!」
ガラスケースのこっち側で下げる頭

「シュークリームでいいよ」
「で、って何よその言い方」
「あっ、シュークリーム、が、いい」
「んもう…。私はモンブランかなぁ」

左見右見しながら皆楽しそうで
時々わたしはうらやましい
ケーキをお求めのお客様一人ひとり
その幸せのお手伝いがしたいから
そう言ってこの店に雇われた

最初は全員有無を言わさず販売で
お釣りを床にばらまいて青ざめたり
スタンプを押し間違えて慌てたり
苺ショートのホイップを潰したりして
毎日わたしは叱られしょげかえる

ああもうすぐ閉店だな
店の丸い壁掛け時計を見上げ息をつく
そこにオドオドとおじいさんが入って来た

「いらっしゃいませ!」
ふるさとの父の口癖を真似るならば
ブルゾンというよりジャンパー
ジャージというよりトレパンの彼は
ガラスケースを遠目にチラと見てから
一番頼りなく見えるはずのわたしに言う

「お嬢ちゃん、ワ…フル?言うのは…」
「はっ、ワッフルでございますか?」

創業55年、ワッフルは昔からの看板だ
「こちら、おいくつに致しましょう?」
「ひとつ、ああもうそのままでも構わん」
「あ、あの、お包みしますので少々…」

120円がま口から出したらフーと息をつき
「ばあさんがものを食わんでな」
「は、はあ…」
「嫁いだ娘に電話したら、母さんはこれに
目がなかった、言うもんじゃから」

ベテランの先輩が会話を引き継ぎ保冷剤
「ありがとう存じます。ご心配でしょうねぇ」
「お待たせ致しました。丁度お預かりします」

うちの店は、お客様を外までお見送りする
首のタオルで紙袋をくるみ自転車のカゴへ
ジイイ、と重そうなペダルの音に頭を下げ

「ありがとうございました。お気を付けて!」
「ええ、ええ、もう。風邪引きなさんなよ」

ポイントカードを作るかの確認忘れについて
冗談めかして型通りの注意を受けた後で
「もう上がっていいわよ。どれか一つ持って」

わたしはワッフルをもらって、ロッカーでがぶり
照れくさそうに手を振ろうとヨロヨロの影に
広がるカスタードはとろりと甘やかに優しい