Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

うっかりの共存

 

頑張って忘れるよと先輩は肩を落とす
私はつとめて無遠慮に返す
「頑張りどころってそこでしょうか」
「なんだ、慰めてくれるんじゃないのか」
 
私の一つ下の後輩は才長けた美人で
先輩は彼女に何かと世話を焼いて
そのうち二人で食事にも行ったらしいが
とどのつまりは今夜の失恋慰労会だ
 
先輩の同期の通称バグさんは
「お前は人間の脳を小馬鹿にし過ぎだ」
「なんだよ、バグまでそっちか」
「忘れたり憶えたりが自在に出来たら
誰が試験であんなに苦労するもんか」
「うーん…そりゃまあそうだけどな」
 
白魚の天ぷらを物憂げにつまみ
ぼんやりと遠くを眺める表情
タンブラーの底ごしに訪れる決壊
猛然と私はまくしたてる
 
リスとか野ねずみってくるみやどんぐり
埋めて隠しとくんですって冬のために
でも時々は自分でも忘れちゃうんです
その分が発芽して育てば木になるんです
 
先輩とバグさんはポカン
 
わざとじゃないでしょでも忘れるんでしょ
それでまたその木が大きくなったら
子や孫がその実を食べるかもでしょ
いいんです憶えとこうと思って埋めとけば
 
呑み過ぎたらしく後は憶えていない
翌日先輩が頭痛の私の席に立ち寄り
バグさんにしこたま絞られたと肩をすぼめ
瓶入りの冷えたお茶を置いて向こうへ