Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

手袋と帽子

今そんなことしてる場合かよ
疲れた顔でこっちを見やると
こっちは大変なんだいろいろ
家事だけならいいだろうけど
 
地震があっていろいろ聴いて
私は怖くなってしまって
大事をとって田舎の実家へ
ありがとう 許してくれて
 
頭ではそう言い聞かせつつ
手では編み物の目を数える
することもなく通っている
近所のおばちゃんの教室
 
爪を爪でひっかく癖
編みかけの帽子を眺めて
…誰に頼まれたんだって?
中学ん時の友達のノブエ
 
それ、初めて編むんだろ?
うん、いい色でしょ
ちゃんと編めるのかよ
訊きながらやるし大丈夫よ
 
なーんか楽しそうだな、お前
趣味なんか見つけちゃって
近所付き合いよ でもこれ
やると結構落ち着くのよね
 
俺が家で手袋探し回ってる間
お前はひとの帽子編むわけか
手元の毛糸があせてにじんだ
ぎゅっと編み図に目を寄せた
 
老眼か?とからかいながら
永住する気じゃないだろうな
見送る時 いつもの背中が
毛糸玉とおんなじ色になった