S・V・O・C
先輩は茶豆のさやが飛ぶほど盛大に吹き出し
私の左の肩をぽんぽんと叩いて声を震わせ
「うそうそ、ごめんごめん」
とりあえずの生中のぬるい苦みを流し込んで
「そうなりますよね、やっぱり」
真面目な顔を作ろうと懸命な先輩の目が潤む
気の張らない居酒屋のカウンター席に並んで
柄にもない悩み相談をぽつぽつもちかけた
神妙な顔で話し始めたはいいが曖昧の海
先輩は鳥瞰で最短距離を見つけるのが得意
繰り出された手際良い質問に順に答えると
具体的なこと、実はあんまり知らないんです
言われてないけどそうじゃないかってだけで
そうじゃないかって疑う理由がこれだけあって
どうすればいいか途方に暮れて眠れなくて
…ああやっぱり私がどうかしてるんですかね
そこで先輩が笑いだしてしまったのだった
「どっちでもいいことそこまで憶えてられる?」
「はあ、割と…」
「ややこしいひとね。とにかく、そうあって
欲しいと願ってるのはあなたの方ってことよ」
言い返そうと構えた私を空のジョッキで制し
「相手が、別にそんなんじゃありませんって
冷静沈着なら、ホッとする?ガッカリする?」
私の表情を窺ってから先輩はさも嬉しそうに
「何か頼む?あなたみたいなカタブツも
そんな参り方するもんなのね。役得だわあ」
そう言うと自由の女神よろしくジョッキを掲げ
「亀の尾とたこ天、お猪口ふたあつ!」