Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

彗星と期待値

 

ちょっとお、ありえないよ
席につく前にショルダーを机に投げ出すと
パソコンも立ち上げずに隣の私に愚痴る
始業七分前のオフィス
 
おはよう、どうかしたの?
ああおはよ、どうかしたのって、彗星よお
ああ、うん、なんだっけ、崩壊?
信じらんない、あたし有休とってたのに
えっそうなんだ、観るためにわざわざ?
だってえ、滅多にないことらしいしさ
そんなに宇宙に興味あるなんて知らなかった
 
彼女はちょっとモゴモゴと口ごもると
いや、その…彼氏が星とか好きらしいの
なあにそれ、かわいいこと言っちゃってさ
やめてよ、そんなんじゃないんだったら
 
コーヒーの隣ではちみつのど飴を噛み砕き
なんかね、そりゃ雨になるかもしれないし
寒くて風邪なんか引いたらもう休めないから
正直ダメならダメでもいいかなってあたしは
でもやれやれホッとしたなんて言えないわよ
一緒にガッカリしなきゃって思うと疲れるの
 
ふうん、なんだかポエマーな彼氏なのね
明日の天気予報が外れることもあるもんね
彗星は地球人にくっきり観られるために
遠路はるばる旅して来てるわけじゃないし
まあでも、一緒に観たいって言われると
まんざらでもないってとこだったんでしょ?
 
彼女はそれには返事をしないで
伸びをしてずれたカーディガンの裾を整え
…届けでは法事ってことになってるから
今更取り下げるわけにもいかないしさあ
了解了解、朝からごちそうさまでござい
一緒に立っておざなりなラジオ体操第一