Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

らせんのイントロ

夕暮れ、コンサートの入場待ち
私の前に並んでいるふたり
男性は立ってにこやかに話し
女性は折りたたみ椅子で笑い
 
足がお悪いのかな
見るともなしに見ていたら
あ、オペラグラス忘れた、車の中?
どっちのカバン?あの柔らかい方や
 
列を離れたのは女性の方
男性は真新しいデニムトートを掲げる
私は首を傾げ、遠ざかる背中を見送る
少し冷たい風 近付く台風の低気圧
 
カメラチェックの説明を終えるスタッフ
男性は何度か傾いて駐車場に目をやる
しばしあってゆっくり女性の影が歩み寄る
それではっと気付く 身籠る逆光の苦笑
 
全然ない、全部のカバン開けたわ
あれ、柔らかいカバンと違うた?
折りたたみ椅子に座りながら
帰りお腹空いたらマルナカ寄ろうや
 
パンがまだあるやん
もうないよ…あ、あるか、カレーパン
あとチョコチップ カレーパン俺一個半
朝二つ食べたやろー クリームパン
 
リストバンドの本人確認一旦切ります
以降は開場後に受付で確認します
それでは、間もなく開場致します
笑顔でたたまれる一人がけの椅子
 
まだこの世を知らない小さな命は
くぐもる音の波にうとうと揺れながら
浮き立つ鼓動と遠まきの拍手の中
その微熱を抱いて、三人と離れた