Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

おかげさまで五十年

 

創立五十周年の記念ビデオは
入社したばかりの私が事務方
 
映像制作会社と電話FAX連絡
まだ憶えてもいない社員に出演交渉
営業課長は私のあまりの覚束なさに
まあやるよ、がんばんなさいと苦笑い
まして現場は気難しい職人だらけで
毎日にべもなく断られ続けへこたれ
 
再現Vの主役は今は亡き会長
誰に訊いても同じひとを推薦される
当時を知っていて弁も立つし頭もいい
あのひとをおいて他にはありえない
 
企画書を持って工場の品質管理室へ
主は不在、思わず机上に置いて逃げ
後で残業中の上司が本人に絞られた
当時残業NGの私も翌朝先輩に叱られた
 
あのねえ、相手にものを頼む時に
直接頭を下げないなんてありえない
ペラ一枚とはどういう了見だって
早いとこ謝って来なさいね
 
青ざめ工場に走り危ないとまた叱責
私が勝手に失礼をしたのですと平謝り
いや君の知らん頃の因縁もあってな
悪いがやはり断る 筋は通したいからな
君だけに腹が立ったというわけでもない
お宅の上司には悪かったと伝えて欲しい
 
どうにか代役を立てて台本を直し続け
事務方とは調整弁と見つけたりで完パケ
VTRは得意先に配られ忘年会で上映会
この予算なら上出来だと上司がボソリ
 
数年後には品質管理の主にも憶えられ
うちはアンタ、こんなに引っ越しをして
油のしみた手帳の達筆を見せられる
残業休憩の夜の現場で覗き込みつつ
わしが出た俺も出たと酔って盛り上がる
上映会の闇の隅で呑む横顔を思い出す