未知なる重心
知っているにもいろいろあるものだ
全てを経験するのは到底無理だから
自分はひとを殺して庭に埋めないが
そういう話をしてみせることもあるのだ
起こりうる全てのことが網羅された
経典や戒律を全て暗記してもそれは
ひとのこぼす涙一粒にたちまち揺らぐ
後ろめたい目覚めによろめくと聞く
正しきこと美しきことで出来た箱庭
愛でつつ静かに歩む隊列の中
正しくないこととはなんだろう?
知りもしないままで裁こうとする
美しくないこととはなんだろう?
遠ざけられたままの醜さは何に宿る
本当はそうでないことを知りたい
そして正しさの正しさに向き合いたい
…ただ言ってみただけのことだ
万一正しさが退屈なだけのものなら
自分が自分でなくなってしまうから
美が苦しみの慰めでしかないなら
未熟をかたどる力に不安をおぼえる
ささやかな安らぎは全て色褪せる
どうやらまた脱落者が出たようだ
悪しき行いの忌まわしき汚らわしさ
…ところで悪とはどのような姿形か
汚れとはどのような色をしているか