Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

くまのプリン屋さん

 

冬の水曜午後限定
池のほとりに出す屋台
正体は洋食店七代目、それは内緒
名前は「くまのプリン屋さん」
 
焦げ茶のくまの着ぐるみが目印
店は定休日、隠れる理由は特にない
ただなんとなく、なんにも知らないひとに
こしらえものを手渡してみたくなった
正直赤字の道楽だ
 
着ぶくれた男の子の真っ赤なほっぺ
びっくり立ち止まってこっちを見ている
見つかっちゃった、と両手を口にあて
頭をポリポリ、とかいてうつむく
ちょっと楽しいけど、結構恥ずかしい
 
その子は口を結んで近付いてきた
「いらっしゃいませ、こんにちは」
「こんにちは…くまさん?ホンモノ?」
「う、うん。ボク、くまごろう」
「ぼく、サトシ。くまごろうさんは、
プリンやさんなの?」
「そうだよ、プリンは好き?」
「ぼく、かゆくなっちゃうの。でも、
あの、ちょっとまってて」
母親らしきひとを連れて戻って来た
 
「いらっしゃいませ、こんにちは」
「ハイ、こんにちは…わ、くまさんが
店長さんなの?」
「くまごろうさんっていうの。ね、
おかあさんのとおねえちゃんの」
「そう?じゃあ、ふたあつくださいな」
紙袋で手渡し、ニコニコの彼を見て
「サトシ君は、どんな食べ物が好き?」
「んーっとね、チキンライス!」
今度、またウチの食べにおいで
思わず言いかけて飲み込んで
「ありがとうございますまたどうぞぉ」
 
頭を下げ、少し離れて立ち止まる影
「おかあさん、どしたの?」
「ううん、どこかで聴いたことある声
だった気がして…気のせいかしらね」
 
その頃くまはおじさんに戻って店じまい
カイロを振って、はあっと手に白い息
明日の日替わりランチは
チキンライスとポトフにしようかな
見上げた薄い半月は少しふとっちょ