Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

コマ落ち四半世紀

 

あんたも来る?と言いながら
うつろに歩く母の背と仄暗く狭い廊下
 
たぶんこれって本で読んだ座敷牢
鉄格子畳敷き 祖母は先に来ている
 
じいちゃんって糖尿で入院したんだよね?
一瞬ぼんやりして他所事に眺め
祖母が差し出した茶碗が払いのけられ
箸が畳にぶすりと突き立てられ
メシのことを言うな!食わせえ!
 
つられて母もおかしくなってきた
元々ばあちゃんは神経質だと思ってた
でもじいちゃんみたいなデブで大雑把な
あんなひとがあんなになると思わなかった
私もそうなるかと恐れた と後にこぼした
 
月曜から土曜 父と私は職場と学校へ
その間母は何をする気にもなれなくて
大福餅をぼんやり食べ続け虫歯だらけ
そのうち便所もお風呂もカビだらけ
出来ないならしなくていいから貸せ
言ってくれたら私だってやるって
汚い、私やるから、絶対触らないで
 
祖父は祖母の一年後まで生きて
最後に母が見舞った日はすっきり痩せ
自分で歩き母の名を呼ぶ少年の目
 
母の中のヘンテコルールは手強いが
物覚えのよさひょうきん口達者は戻った
前歯はなくなり私アンコはもういいわ
 
墓の前で手を合わせる風の中
じいちゃんばあちゃん元気ですか
…元気かってのも変だな
目を開いて見上げる広い空