Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

怪我の光明

 

実家でつまらぬ言い争いをして
上着を引っかけて家を出た
水筒を忘れたのに気付いて
自販機に八つ当たりホットのお茶
 
カッカと歩くと足が勝手に選ぶ
体に染みついた母校への通学路
前のめりのきつい目の端に映る
変わったところ、変わらぬところ
 
高い緑のフェンスに囲まれた
テニスコートが見えて来た
幹の奥を春色に染める桜は
昔よりがっしりごつごつしたようだ
 
枝の下をしばらく歩くと運動場
立ち止まって眺めつつお茶を飲む
 
いやいや参加の運動会の想い出
お調子者のリレーのアンカー男子
シュワッチで階段の手すりから落ち
ねんざで大目玉を食らった三日前
 
走者順の変更なしと担任のお達し
ねんざの彼は両手で松葉杖をつき
トラックをひょこひょこ進んでいく
保護者のヒソヒソ、級友の苦笑
 
それまでのリードを全部手放し
最後の一人に抜かれかけた時
その一人がずでんとすっ転んで
あっと悲鳴、無遠慮な笑い声
 
ねんざの彼はふと立ち止まり
くるり向き直り松葉杖を放り出し
転んだ子に手を差し伸べ
揃って立ちかけてもろとも倒れ
 
腕組みのしかめ面も吹き出し
しばらく笑い声がさざめき
続けて拍手と手拍子が沸いて
肩をすくめ頭をかく松葉杖
 
注目をさらわれた一等の子は
物足りなくむくれ顔だったが
肩を組み二人揃ってのゴール
倒れつつテープを切り笑いだす
 
気付けばひとり笑っていて
やっと我に帰る自転車のベル
ぬるいお茶をごくんと飲んで
夕餉の香りをぬって家路を辿る