Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

ヘクトパスカル

 

諸々煮詰まって頭がぐらぐらする
昨夜からコーヒー豆が切れている
万やむを得ずの事例と判断し
俺は靴を履き鍵を二つ閉める

部屋の窓から見ていたよりは
風が少し強いようだし肌寒い
橋を渡りながら川面を見やれば
普段より水かさも増した濃鼠

やがていつもの外苑に出て
乗る予定のない貸しボートを眺め
かきうどんのお品書きを横目に
エノキやなんかの影を踏む

土曜の夕暮れにしては静かだ
深遠な思索に耽る顔を作りつつ
トイレットペーパーもなかったかな
晩飯と、明日の朝飯なんにしよう

ぐるりの半分過ぎの薄暗がりで
キジトラの子猫が向こうを見ている
近付いて鳴き真似をしてみせると
ちょこちょこ着いてくる頭のてっぺん

俺が立ち止まると足元にぴたり
でも何故だかこっちに背を向けて
しっぽだけくるんと靴に巻いて座る
触ると怒るかな

何度かそれを繰り返して
じゃあ、またな、俺、もう帰るから
そう言うと急にとととっと追い越して
イヌガヤの古木をバリバリ引っ掻いた

顔くらい見せろよな
拾ったどんぐりを投げ上げ橋を戻り
ビルの二階のコーヒーショップの
挽きたての豆を抱く影と朧月