Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

逆光の隧道

ことばがひとを救うなんて思わないよ
どうしようもなく無力だとわかっていても
結局これしかできないんだからやる
実際度々喪って来たよ、なすすべなく
 
男はベンチでふうっと息をついてから
手を膝に置き背を丸めて口をつぐんだ
そうしてしばらく黙って眺めるカラスは
枝をくわえ首を傾げふたりを見下ろした
 
しばらくして膝のかばんがひっくり返り
青いバレッタの女が慌ててかがみ
男は手を伸ばし花柄のポーチを渡す
女はあ、それ、と少しもじもじする
 
向き直り銀杏の葉脈に目を細めると
あくまで私だけの実感なんですけど
ひとのことばが届いて受けとれて
それなのに死ぬわけじゃないですね
 
どういう意味?
心が弱っている時って、何も感じない
何も聴きとれないから病なんです
いくらダイヤル回してもずっとノイズ
 
ひとが言ったことが追い詰めたとか
引き止められないひとが薄情だとか
そういうんじゃ全然なかったんだな
それは、死に損ねてわかりました
 
…どうして君は死ななかったと思う?
感じたい煩悩が先に戻ったからです
それは、どうやったら元に戻るもの?
努力と練習です、つまんないでしょ?
 
男は、はははっ、と体を折って笑うと
案外地味だしフツー、でも僕もそうかも
向こうからも掘ってるから繋がるんだ
女は花柄を両手で包み、はい、と笑った