Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

ゴー・フラット

 

私服はサイズが合えばファストで十分
ご飯はコストパフォーマンスが優先
善良で平均的な独身サラリーマン
 
一時期ちょっともやっとしたこともあり
いまは未満も以上もなくジャスト友達
その男友達の服選びを急に頼まれ
あたしはセレクトショップで次々品定め
頼んだ本人は、本人の癖に浮かぬ顔
 
あたしに頼むってことはお相手は…と
負け惜しみではなくヤキモチでもなく
うわ、また置いて行かれるとの焦りと
どよんとした憂さを振り払って探す
 
店員に捕まり浮つき寝言の彼に代わり
タグで素材だのお手入れだのに目配り
予算ってあるんだっけ、まあいっか
試着室の前の履き古しのスニーカー
 
あたしは先週他の男にすっぽかされた
デートで着ていた服を今日も着て出た
彼はスニーカーを踏ん付けて出てきて
クールな男性店員は革上履きを促して
「やだあ、なんか、カッコいいかも」
「ハイ、とてもお似合いでございますよ
シンプルで、着回しにも重宝されるかと」
「ちゃんとしてる感じっぽく見えるわよ」
「はは。お連れ様もこう仰ることですし」
「あら。太鼓叩きなだけよ、あたし」
「ご謙遜を。お見立ての軸はお人柄で」
うまいこと言うわねと愛想良くお買上げ
 
上質なすべすべの紙袋片手に彼は憮然
「なに、一張羅買ってそのテンション?」
すると彼は急に息を吸い早口で喋り出した
「なんかさあ、俺はね、そのお値段には
見えないです着こなし方かもって世辞なんざ
言われる程度の服をテキトーに着てるのが
元々好きなんだよ。上の連中にはいいモノ
知らないって気の毒がられることもあるけど、
服が心配でそこらのベンチに座れんなんぞ
滑稽で、ひっちゃぶいて川に捨てかねない。
でも、いきなり普段の服だと相手には失礼
なんだろう?その、一般的に」
「んー、相手のひとの価値観によるでしょ」
「正直、ずっとこの調子だと参るよ」
「そういうひとかどうかを見定めるんでしょ」
 
「面倒だな。俺は価値観が合う合わない
って決めつけ自体持つつもりないのに」
「母は、なくて七癖っていっつも言ってた」
どちらともなくはあ、と白い息をつきながら
「なんか食う?あ、金あんまないけど」
「ん。ファミレス割り勘で手を打つぞよ」
「かたじけないのぉ」
「私が元々いちごパフェ食べる予定なの」
 
一緒にいて楽な相手がいいなんて言うけど
言いたいことを素直に言える方が楽だけど
生涯苦楽をともにし、ともよく聞くんだけど
気楽とときめきと情熱の火花の得難い両立
正面のくたびれを衝動なく眺め苺を頬張る