Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

複眼とまばたき

 

稲穂が風になぎ倒される頃
あぜ道をぽくぽく歩く夕間暮れ
首から提げる黄緑の虫かご
しゃがむたびにちょっと邪魔っけ

小さな手のひらをお椀にして
小さなすばしこい影を閉じ込める
鈴虫はさすがにちょっと難しくて
おっとりさんはコオロギのメス

水槽に移し野菜くずをやっては
飽きず眺める小さなコオロギ
オスのハネはお仏壇みたい
メスはのっぺりしているんだな

お茶の間のささくれた畳の上で
水槽を眺めながら寝てしまって
その日は日曜日で雨の日で
家族もみんなしてころり雑魚寝

ふと目覚めて目に入ったのは
くちゃくちゃの見慣れた焦げ茶
寝ている間に死んじゃったの?
イビキの中で凝らす寝ぼけ眼

くちゃくちゃの少し奥の方に
一回り大きくて真っ白い虫
眠い頭でうんうん考えた
私が泣くって思ったのかな?

ふがっ、とイビキがやみ
起きて来た父親を問い詰めた
「コオロギしんじゃったみたい」
「しろいの、とってきた?」

しばらくぱちくりしていたが
うわははは、と笑いだし
「こりゃあ、脱皮だろうな」
「えっ、ダッピ?」

よおく見ると前とおんなじ形
くちゃくちゃは洗濯物みたい

まだ奥の方でもじもじ動かず
懐かしそうな眼をしている