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Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

フォルテピアノ

 

掌のモバイルフォンの画面で
やりとりが続いている帰りの電車の中
乗客もまばらな残業上がりの深夜
おかげで会う時間もとれない旧友が相手
「お」の予測変換第一位は「お疲れ」
 
仕事上利害のないのをいいことに
指先からはあれやこれやと詮ない愚痴
" 毎日大変だな " " 無理せず休みなさい "
いつだってこいつは僕に味方するからいい
 
" ロクな仕事もせずに、しゃあしゃあ定時で
帰る準備、たまに仕事振ったら逆切れ、
やる気がないなら辞めさせるかクビだよな "
うっかり口が過ぎたかな、でも事実だ
その後、ちょっとおいて長い返信が来た
 
" 誰でも自分は他人より役に立ってるとか
価値があるとか信じていたいもんさ
それは作業時間や成果とは関係なくて
例えばお前だっていつ倒れて職を失って
畑違いの職場でボンクラ扱いされるか "
ぎょっとして取り落としそうになったが
" 縁起でもないこと言うな "
" 自分と同じ熱量で事に当たらない
人間にも諸々事情はあるんじゃない? "
 
そろそろ駅に着くから、じゃあおやすみ
嘘ではないが、正直言うと愉快でない
 
手持無沙汰になる奴は無能だからだ
真っ当に稼げないなんて自業自得だし
倒れるだの病気だのは自己管理不足だ
弱さを盾に居丈高になるのは筋違い…
 
…旧友も最近転職したとか言ったっけな
あいつの話は何も聞いてやっていないな
寄ったコンビニで叱られる研修中バッジ
切れかけの街灯と何か知らない花の香り