Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

サミングvsノッキング

それは彼の癖なのだが
人差指でこめかみをぐりぐりやってから
トントン、と同じ場所を指先で打った
 
「なんてタイトルでしたっけ?あー…」
「何が?」
星新一の話にあるんですよ」
「書名じゃなく?何篇あると思ってんだよ」
「セキュリティ認証の話なんですが」
「そういうのも、結構数なかったか?」
「薬品モノほどじゃ…」
 
しばらく考えたが思い出せないらしい
いきなり歌いだすレコード屋の客みたいに
宙を睨んで勝手に喋り出すあらすじ
 
「読んだ気もする。それがなんだよ?」
「今のあなたにちょっと似てるかも」
「ハア?」
「俺の知る限り、あなたはタレントじゃ
ないし、ノーベル賞候補でもなさそう…」
「そんなことはおれもわかってる」
 
著名なひとは無防備に堂々ともしていて
些細な役得も不愉快も併せ飲む存在で
あなたは警戒心ばかり著名人級で厄介だ
彼はそんな意味のことを平然と言い切った
 
「猪口才な口をきくな。何様のつもりだ」
「俺は様なら返上します。あなたは?」
「……」
「つぎはぎに試したり疑ったりしてたら
周りも自分もいずれ潰れるんですから」
「しつっこいな、お前に一体何が解る」
「俺はわからないって話をしてるんです」
 
言った勢いで立ち上がり伝票をさらい
捕まえる前に払って出て行く背中に
鞘から抜けない返す刀と白いカップ
見ると椅子に置き忘れの書類ケース
 
スキャンで流出してやろうかあのスカタン
悪意を噛み殺して呼び出すメール画面