Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

アンチアンチテーゼ

 

あたしは苦手よとしかめっ面のまま
映画館の近くのカフェでホットココア
ラテアートで少し緩む彼女の表情
彼は誘った手前弁明を並べてみる
 
世の中にうんざりはいっぱいあるしさ
あのえげつなさがじわじわくるんだ
あんまりデフォルメが険しいから
現実が穏やかな小春日和みたいだ
 
うん、それはわからないでもない
毎日が忙しいことと退屈は別だし
せっかくの休みに時間を使うんだもの
現実以上の刺激が必要なんでしょ
 
快さ美しさだけでひとの心が動くとは
そりゃあたしだって思ってないわ
でも正の感動ってわりかしベタでしょ
嫌悪感を催す方が芸術ぽいの?
 
へえ辛口だね、そういうの悪くないな
そんな気もするよ、言われてみれば
ドーダお茶の間じゃ無理だろって
ショックありきのアートも多いかもね
 
かつてない恐怖に戦慄しなくても
全米が涙してなくてもあたしはいいの
理想論みたいに取られがちなことを
丁寧に届けたっていいと思うんだけど
 
現実は脈絡なく殺人も裏切りもあるし
ひとを侮るのに正当な理由なんてないし
わざわざ創ってくれなくたって結構よ
あたしは安心して帰りたいだけなの
 
ムキになって訴える涙目
初めて見る感情に彼は何故か安堵して
残りの薄曇りの午後いっぱいは
なんでもない時間にしようと決めた