Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

10001回目のリプレイ

連れ添いを亡くして
もう二十年になりますかね
どんなひとだったって…
真面目なだけのひとでねえ
 
実は他に許嫁がいてねとか
長く待ってくれたけどとか
叶わなかった話もある中
皆がつい溜飲を下げるのが
 
それが今の夫です 妻です
晴れ晴れとした結びの文句
いい話だねえと頷き合う
その実いろいろあったろう
 
ほんまに腹が立つわこの男
三回は別れようと思うもんよ
こともなげに親に言われると
じゃあなんで結婚したんだろ
 
どうして私なんか?
でっかいのがよかった
こっそり取ってある手紙には
何時頃お着きなのかしら
 
親より先達のお話に耳傾け
お互いまるでピンとこなくて
立ち消えた見合いもある中で
一応はまとまったわけだしね
 
借金のカタやお家のために
無理に結婚したわけでもない
イヤなこともあっただろうし
いいとこもあったと思いたい
 
ある時気付く「好きかも」は
何度でも読み返すものだから
信じるべきは相手だろうか?
あの日の自分に訊いてみな

本能の母艦

それとこれとは別だから
切り離したら楽になれんだ
身も蓋もなくったってさ
センチメンタルよかまし
 
失恋がつらいって言うけど
心に穴が空くって言うけど
恋だけあって体がないのも
気味が悪いよ そうだろ?
 
触って怒られない体があり
自分だけのものと思ったり
たまにひとに自慢できたり
要はそれだけのことだし
 
だからまあ言ってみれば
好きな子に好かれない涙や
この世の理不尽を呪う心は
生理現象の前兆ってだけさ
 
運命だとか幸せだとか
もっともらしいのは抜きだ
平常心が脅かされ続けたら
遺伝子の本能が騒ぐだけさ
 
…うまく納得したつもりで
最近たまに割り切れなくて
熱をうすらさみしくなだめ
こんなの前にもあったっけ
 
自分の中で収めない奴は
見下すことで保ってたなあ
感情なんかより理性の方が
アテになると思ったけどな
 
自分の中に籠もっていた
寝た子を起こしてしまった
見ないフリをしたら泣いた
あやしたらキョトンとした

カタルシス依存症

現在の状況をお伝え下さい
って要望が世の中結構多い
早く早く強烈なのが欲しい
他人の興味が薄れぬうちに
 
遠くにいて何も出来なくて
イライラするのもあるよね
つらさも正直に吐き出して
僕が聴いてあげるからね
 
その時起きている裏も表も
現場にいれば見えるけど
見せないことが多いんだろ
なんとかするしかないもの
 
当初伝えたいと思ったこと
不本意ながら変更したこと
起きたもんはしゃあないよ
とにかく成立はさせようよ
 
出役裏方がプロにしたって
編集出来なきゃトラブって
映るとこだけ取り繕って
黙って目を合わせ肩すくめ
 
不確定要素を極力取り除き
予定調和の打ち合わせ通り
それはそれで退屈のあくび
イチかバチかが懐かしい
 
※この話はフィクションです
※許可を得て撮影しています
要は何も起きねえんだろう
衝撃映像ったって無事だろう
 
表は気の毒そうな神妙でも
裏には悲劇に飢える業の炎
夜目遠目のご託宣は他人事
見る暇ないよ今やってるよ

隙の居所

ややっこしい世の中ですけど
芸術はいいんですよ変態でも
幻視の写実かも 抽象かも
 
「私は死にました」と書く
嘘とは言われないでしょう
そういう表現なんでしょう
ひとが真に受けるかの話です
 
ゼロをイチにするのは嘘だが
元はほんとの話なんだからさ
いないひとがいたっていいや
いるひとがいなくたってまあ
 
伝えるって腕なんですよね
意図ってことでしょうかね
明確な意図のある作為って
もっと巧妙じゃなきゃ妙で
 
私の絵は下手の横好きです
ああ、デッサン狂ってそう
でも描きたい時もあります
言いたくもなるんでしょう
 
指摘されるのはイヤでした
のびのびやっていたかった
質の悪い矛盾は伝える邪魔
うまくはなりませんでした
 
学んでお稽古を続けて直し
それでもまだまだと悩み
根を詰めた人物づくりに
即興で太刀打ちなんて怖い
 
喩え話はすばらしいです
作り話は穴だらけです
自分もひとも守るからです
それがあなたの良心です

洗い物vs書き物

生活だってあるんだから
書いてる場合じゃないんだ
今は踏ん張りどころだから
洗い物どころじゃないんだ
 
その時々にどっちもある
どっちかが下らなく思える
こんなことやってどうする
他のひとでもできるだろう
 
尋ねる自分ごとに違って
そりゃこっち優先ですって
そんな真人間だったっけ?
やめたら終わりじゃねえ?
 
したいことするべきこと
頼めること頼めないこと
だんだんわからなくなるよ
今いないことにしてくれよ
 
眠たい時は寝ていたい
腹が減ったら食べていたい
泣きたいし抱きたいし
死にたいけどがんばりたい
 
自分にしか出来ないことは
ないんだよわかってるんだ
なのに君じゃなきゃ駄目だ
それって絶望だか希望だか
 
あちらこちらのひとに
かけがえないひとのように
褒めそやされるのもいい
僕はひとつあれば他はいい
 
全部の期待に応えるのは
無欲?滅私奉公?傲慢さ
一番の大事が変わるのは
今生きているひとだけだ

あの未来は今

こんな幸せを見せつけられて
何も実現してないおとなの俺
子どもっぽさだけ責められて
なんかつらかったな 観てて
 
私はちょっと違うんだけど
つらさもわかった気がするの
忘れようとしてたなくしもの
聴き分けなく困らせたあの頃
 
おとうさんおはなやさんね
って憶えてる?好きな場面で
監督の描く女の子は長女で
トトロで言えばサツキだって
 
次女の目には「いい子ぶって」
妹への気遣いのなさも問われ
僕は次男坊だしメイに肩入れ
その想いで描いたけど…って
 
私は一人っ子だから長女よ
30年ぶりに急に気付いたの
やだああって泣きたいけど
おとなぶってただけなのよ
 
もしあの時わがまま言ったら
きらわれ見捨てられたのかな
そんなことないってわかった
かわいいなぁって絵だった
 
ずっとずうっと昔からね
おとなだっておとなぶって
口癖を飲み込んだ どうせ…
僕は親じゃなくこの子だって
 
この子の未来に幸いあれ、は
僕の今に幸いあれ、なんだな
この願いを受け止める努力は
親になれなくても出来るから

毎度お馴染み40年

いやあ参った 驚いたね
こんなことがあるとはねえ
俺結構がんばって来たよね
なんか悪いことしたんだっけ
 
おもしろけりゃ基本なんでも
いいんだよ いいんだけど
俺はしょうがない何書かれても
でも親父は勘弁してくれよ
 
俺が知られてるばっかりに
あの世に行ってまでこんな目に
そればっかりは申し訳ない
馬鹿にされてんのが情けない
 
長年大事にしてきたこと全部
踏みにじってネタにしやがる
誰なんだよ証言してるこいつ
人前に出るの怖くなっちまう…
 
黙って聴いていた常連のひとは
眉根を寄せ瞳に炎を映しながら
それはそれとしてお茶を飲んだ
聴く前と後で何か変わった?
 
いいえ、別に何も
知らないひとは非難するかも
そんなひとなわけがないでしょ
何故って言われても困るけど
 
ひとの話が証拠になるなら
誰だか知らない密告者よりは
馴染みのあるひとの話の方が
年月の分厚みがありますから
 
言いたい主張は常にアリモノ
新商品開発 売るのも仕事
それで見損なうような相手を
探す踏み絵 それだけのこと