Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

桜の前景

桜以外の花の名前は
そんなわかんねえんだよな
ウルトラマンの怪獣とか
動物なんかは得意だけどさ
 
私もお花屋さんのお花は
あんまりわかんないかな
小菊とかりんどうとか
買ってもお供えが多いから
 
桜はいろいろ感じやすいよ
咲き始めの夜の淡い香りも
蕾の濃さも雨風の心配も
犬の鼻先にくっつく花びらも
 
クラス替えとか就職とか
変化って好きじゃなかった
晴れ晴れって感じしないなあ
春はお葬式の記憶があるから
 
俺にも多分そういうの
あったんだと思うんだけど
どんちゃん騒ぎと目が合うと
見ないフリして逃げんだけど
 
咲いてる時の桜だけを
桜って言うのかなとも思うの
私は新緑も紅葉も好きよ
ひとも少ないし落ち着くの
 
バーベキューの煙と笑い声
子ども靴 車椅子の背もたれ
土手を走る自転車 止まる杖
つないだ手と手 細める目
 
桜をバックに思い出すのが
葬式じゃなくなるといいな
そのために何が出来るのか
汗ばんで見つめている後ろ姿

こもごもの野辺

あんまり準備がいいのも
なんだかどうもいやなんだと
子どもっぽいことを言う母も
葬儀屋に問い合わせる午後
 
百貨店とスーパーの間
本格的過ぎない婦人服売り場
似合うというのも変な感じだ
店員も気の毒そうに見送った
 
ちゃんと出番がやって来て
喪主の母は気丈に挨拶をして
口の悪い親戚が褒めた後で
手違いで届かない折り詰め
 
深山公園は花盛り花盛り
遺影を抱えてハイヤーに乗り
どんちゃんを横目に通り過ぎ
待合のパイプ椅子はひんやり
 
今日はよく晴れてよかったな
よかったってのも変だけどさ
ちょうどいい天気ってやつは
祝儀も不祝儀もないもんだ
 
その礼服で四回お通夜葬式
ひとの結婚式も同じくらい
夏はカーディガンを羽織り
明るい水色にコサージュに
 
お通夜で道に迷って苦笑した
結婚式の無茶振りで歌った
坊主の袈裟のポクポクの手が
ぼんてんで何度も虻を払った
 
今日はかなしいかうれしいか
泣きはらした喪服のおとな
卒園式の花束が見上げたら
やあおめでとう しっかりな

bothのモザイク

ひとが見ているんだから
ちゃんとしてなくちゃ
もういやだって言いたいな
テンション上がってないな
 
そのまんまむきだしても
怒られずにいられる場所
それぞれ持っているもの
なければこしらえるもの
 
表と裏、白と黒、0と1
ハイとロー、さあどっち?
決め付けたがりられたがり
ヒヨコでもあるまいし
 
デジカメの写真だって
ずーっと寄ったら画素で
離れて見たら誰かの笑顔で
どっちが見たいんだっけ
 
ある時は不機嫌そうな顔
またある時は眠そうな顔
しかしてその実態は、と
見やると鼻歌で犬の散歩
 
ビシっとタキシード
うろつくパンツいっちょ
健やかなる時も病める時も
どれも同じそのひとでしょ
 
もうなんか今日はダメだ
ずっとなんじゃないかな
もうやなんだろ俺なんか
まあまあ はいお茶
 
お腹痛い 触んないで
たまに虚しくなるのよね
イヤならもうほっといて
まあまあ 団子食えって

孤影ブースター

憶えたいことだけを憶え
忘れたいことは忘れ
脳内はすっきりと片付いて
まあ、そうできればねえ
 
王様の耳はロバの耳
眉間に雷でも落ちりゃいい
深く深く掘った穴っぽこに
泣き叫んでフタをする日々
 
そうは言っても誰彼構わず
罵倒出来やしないだろう
リアル友達はいないSNS
にしても掃き溜めにする?
 
穴は別の場所に掘らないと
バランスがとれなくなるよ
自分と切り離せない憎悪
流せないトイレと同じだろ
 
ある時空がぽかっと開いて
今までの全てが降ってきて
…そんな小説もあったっけ
頼む、そのままでいてくれ
 
独りで叫ぶ時の自分だけが
ほんとうの自分な気がした
上っ面の世知辛い世の中
裸でいられるのはここしか…
 
数年が過ぎ 笑いながら
あの穴埋められるんだってさ
最近行ってないなそういや
そりゃ更地にするだろうな
 
たまには叫ぶ時もあるけど
今は心の穴で事足りてるよ
叫びつつ 俺何言ってんの?
今度あいつにも話してやろ

次打者の◯

弱さは好きじゃない
自殺ってのを僕は認めたくない
不倫なんてしないし許せない
相手が死んだら死ぬつもり
 
今時珍しいひとだな
生身の人間は間違うものだ
その葛藤をしたり顔で描くのが
芸術だと信じて疑わなかった
 
それはそれとしてのそれを
おかしくない?と怒るひと
なんだか気が楽になったよ
泣きやむ自分の中の子ども
 
もう少しじっくり話を聴けば
想像もつかない前向きよりは
人一倍怯えが強いひとだった
そうか、それはそれでいいな
 
なんだかわからないけれど
振り返れば変わっているけれど
あの時はあの時で助かったよ
今は今で同じ気持ちかも
 
知れば同じではいられなくて
逸れた気がする時もある憧れ
自分にも流れる悟りと衰え
やあ、またお会いしましたね
 
純粋で頑なで独りよがりの
周りの見えない悲壮な覚悟
前より弱そうに見えるけれど
血も涙もあたたかい傷の跡
 
敬遠して牽制してきたのは
そっちじゃなかったかな?
そこで死のうが進もうが
生きれば会える気にするな

仮眠とアラーム

起きても覚えている夢は久々
古びた学校で過ごした私は
帰りそびれて一夜を明かした
始発で帰ってまた戻れば?
 
誰かのおしゃべりに捕まり
始発を逃して次に乗り込み
白いコンテナが生えた出入口
どうやら特別補助便らしい
 
ガラスの鉢に水と赤い花びら
下手がやると吹き溜まるのが
プロはうまく散らせるから
光が底まで通るんだそうだ
 
コンテナ内では客が先客に
ご意見ご要望を伺って回り
知らない口上をスラスラ言い
ご遠慮なくお申し付け下さい
 
近くで聴き慣れた声がして
そのひとの後輩が二人いて
当惑が透け裏返り気味の声
迷って話しかけられなくて
 
座ったか座らないか
いつもは二分の区間だが
十二分以上かかって着いた
押し流されるドヤドヤ
 
着いた先でも誰かに捕まり
そそのかされる青い遊園地
しばらく直行便はないし
もうサボればいいじゃない
 
無遅刻無欠席だったのにな
せめて先生に連絡しなきゃ
まーだそんな風に思うんだ
呆れ声のエコーで目覚めた

自尊心に償う

恥かかせんじゃないよ
俺が間抜けみたいだろ
お前の今後のためにも
今まで通りに続けるよ
 
何で好かれているかは
自分でもわからないから
できたらよく見せたいな
いくらなんでも丸腰じゃ
 
やっとそれなりに
いい暮らしも出来たし
今後も努力は怠らない
もっと尊敬されてもいい
 
コンプレックス?
そんなのいくらでもある
口が苦くなるような記憶
末代まで許せないあいつ
 
結果俺の方がマシだ
俺の方が上等に生きるんだ
床に捨てた菓子を食わせた
やつの土下座を踏むまでは
 
だから邪魔すんじゃないよ
足を引っ張るのはよせよ
今更傷付けられなくても
イヤな目見てんだよ元々
 
お前を自慢できることが
どんなにうれしかったか
どれだけ堂々と出来たか
現実なんて知ったことか
 
悪いようにはしないから
元よりよくしてやるから
俺を助けると思ってさ
俺に殉じちゃくれないか