Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

運命の後日譚

これって運命なんじゃないの?
頬を赤らめて言い募る女の子
よくあることじゃないの?と
その男はつまらなそうな顔
 
どっちがほんとうになるか
今の段階ではわからないが
幸せそうかどうかくらいは
見ればわかるというものだ
 
なんでも素直に信じていると
そのうち痛い目見るんだよ
世の中そんなに甘くないよ
取り越し苦労くらいが丁度
 
周りに水を差されもするが
いの一番に踏んで消すのは
当の本人の浸かる世知辛さ
おめでたいひとだな君は
 
そうかなあ そう思う?
あたしは運命ってことにする
どっかにつながってるはず
雪に駆け出し滑る長靴
 
ああほら 何やってんだ
走るからそんなになるんだ
こう、ペンギンみたく歩幅…
あはははは
 
何がおかしい
だっておっかしいじゃない
鬼みたいな顔してよちよち
うるっせえ この方がいい…
 
ズゴデンと派手に転んだ
あっはははは もうやだあ
真っ白になった眼鏡が
ふるふると手を差し伸べた

自由と家族の117

社会だ宇宙だと大上段に
啓蒙したり苦言を呈したり
悼み祈るフリをするより
地に足ついてる方がいい
 
いつかのお急ぎ便が続々
ポストを開ければ不在票
それぞれ依頼する再配達
すぐに開きもしないだろう
 
雑誌も全部は読めないや
かさばるしそろそろ電子化
見放題つっても時間ないな
払ってるだけの会費多いな
 
資料読んで飯も食わなきゃ
燃えるゴミ明日だっけか
風呂がピーピーいってら
洗濯しないと靴下やばいな
 
唐揚げ弁当三割引
なんとなくつけるテレビ
知らない誰かがむせび泣き
お母さん 私も死にたい
 
ああそうか そういう日か
ただでも滅入ってるから
ダメ押しされる気分だよな
悪い 悪いけどしんどいわ
 
ラジオをちょっとかけて
笑い声に耐えられず切って
音楽を薄くかけて仮眠して
20年前と20年後の夢
 
死にたいあの子は結婚して
子を産んで離婚して育てて
いい子だよな やさしくて
俺の未来ってなんだっけ?

衆人の輪

片思いしている同級生に
長く連れ添ったご亭主に
一言メッセージを下さい
マイクと期待の眼差し
 
まんざらでもないひとも
勘弁してくれよのひとも
いていいと思うんだよ
人前ってのは厄介なもの
 
そういうのは直接言うから
困らせるかもしれないしさ
恥かかしてもなんだから
ついでにされたくないんだ
 
皆さんが立会人になって
どうか見守って下さいね
でもひとの目に囲まれて
言ったその返事って本音?
 
相手と二人きりだってさ
正直に話せるか五分五分だ
ひとりでも他のひとだから
カッコつけたくなるんだ
 
広めることは薄まること
ぎゅっと固めた気持ちも
粉々になって飛び散るよ
受け止められるといいけど
 
見られていると思うから
いつもより笑ってみせた
いつもより怒ってみせた
言い訳は犬に聴かせた
 
万人向けの本音などない
気付いているはずなのに
ひとにはあると思いたい
頼めばくれると思いたい

おひがみさまと福引

週末の話なんだけど
うん、どうしたの?
お正月休みだっただろ
焼肉屋で集まってたんだよ
 
その焼肉屋の店員について
説明しようとしたところで
彼女はすっと顔を曇らせ
誰と?集まってたって
 
え、いつもの連中だよ
まあちゃんと入道とゆみと
お前も会ったことあるだろ
…そうね、知ってるわよ
 
それでさ、新入りバイトが
注文全然聴き取れなくてさ
チャンジャ ちぇんじゃ?
しまいにゃまあちゃんが
 
ふーん、そうなんだ…
最後まで言ってないぞまだ
ああ、そうなんだ
なんだよ、どうした?
 
別になんでもないわ
おもしろうてようござんした
なんだよその言い方
笑わせるどころじゃないな
 
つまらない顔をして別れて
帰る道々に思うそれぞれ
あーあ、感じ悪かったよね
飯も食わずに帰るって…
 
おどける心を真顔で踏む
おひがみさまの仕業だろう
お互い明日のくじを引く
もっと楽しくおもしろく

あれかしの声

去年の質問に今年お返事
気の長い黒ヤギ白ヤギ
お年玉のはがきは食べない
取り立ててご用はない
 
もうだんだん減らしゃ
ええんじゃねえん?と母
そんな細々書いたってから
えろう見よりゃせんから
 
あんたは教員しよった時は
ええ先生じゃったらしいが
ひとのやる気が出るような
言い方くらい出来んのかな
 
必要かどうかを言えば
なんとも言えないものが
いくらでもあるんだよな
仕事だってそうじゃないか
 
会議資料が出来なくたって
鐘がうまく打てなくたって
あーあってなるくらいで
本気で困ってやしないよね
 
なくてはならない
あってもいい なくてもいい
ない方がいい やめて欲しい
見た目ほど楽でもないのに
 
やめちゃえば?の方は
気にすることないから
その時のそのひとがただ
いらないってだけだから
 
いらないことを探すより
あり続けて欲しいものに
時間いっぱい向き合いたい
作る業は業であっていい

両親と良心

サンタさんの恰好をして
ケーキを売る店の前
サンタさんの恰好って
見た目より意外と寒くて
 
下にダウンを着込んだり
カイロを握りしめたり
お客さんがいない時に
ヒゲを飛ばすくしゃみ
 
自分で言うのもなんだけど
他のよりホンモノっぽいよ
中のケーキにヒイラギを
一個一個飾ったのも僕だぞ
 
不意に裾を引っ張られた
うん?と振り向いたら
真っ赤な頬の男の子が
じいっと見つめた
 
お おお こんばんは
ケーキをご所望かな?
ごしょも? あ 違うか
お父さんかお母さんは?
 
なんかね みつかんないの
はぐれちゃったの?迷子?
サンタさんはどうしたの?
まだここにいていいの?
 
僕…わしは大丈夫じゃ
おてがみよんでくれた?
ご両親らしき若い二人が
駆け寄ってきて頭を下げた
 
ケーキ下さい 小さいの
お手紙多くって大変でしょ
なんの 毎年楽しみじゃよ
いい子にして待つんじゃぞ

緞帳の内外

今日は疲れてんだよなあ
他にすることだってあるさ
誰が待ってるっていうんだ?
ああもう行くのやめよっかな
 
そういうぐずつきが
来るまでに何度かあった
やったら終わるから
終われば終わるから
 
ひとりひとりそうだよね
キューを振られて切り替えて
楽しい顔 楽しい声
気持ちは後からおいで
 
ほんとうに億劫なのは
他にある片付かないことだ
ずるずる始めてみたら
そのうち笑い出すんだ
 
また落ち込むこともあるよ
逃げたくなることも
時には逃げて助かることも
慣れたって楽じゃないよ
 
好きこそものの上手なれ
好きってひと色じゃなくて
怒ったりうんざりしたりね
しょうがねえ、やるかって
 
お湯が出るまでは冷たい
裸で縮こまっている生身
そのままでお待ちなさい
ボンウッと火種の響き
 
あーあったまるなあ
極楽極楽なんて言うんだ
はじまりはカラ元気さ
楽しくなあれ お互い様