Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

エンタメと野暮天

それって矛盾してるよね
そんなこと言ってたっけ?
え、最終的に選ぶのそれ?
常識ならありえないって
 
証拠品を山積みにしてさ
ドーダって睨みつけたんだ
そしたらしょんぼりしてた
悪いことしちゃったかな
 
振り向く医者の深刻な表情
余命いくばくもない主人公
固唾をのむ私の隣で父が言う
レントゲンに癌がない情報
 
もう、いいとこだったのに
余計なこと言わなくていい
とにかく、ないもんはない
いいんだって、ドラマだし
 
セピアの昭和ノスタルジー
あったあったと盛り上がり
恋の行方に思いを馳せた時
あれもCGかな?で我に返り
 
あのさあ、わざとなの?
野暮なこと言わないでよ
目をつぶって感じてこその
エンターテイメント
 
父はきょとんとしてたけど
おんなじことしてたんだわ
元々正解が知りたかった?
楽しい時間が欲しかった
 
楽しませようとしてんでしょ
粗探しなんてつまんないわよ
いいとこ見つけるのが才能よ
薪をくべるからあったかいの

表情の裏地

仏頂面で写真に収まった
若い父を笑うと父は言った
男が歯を見せて笑うな
昔はそう言われたもんだ
 
喜怒哀楽
生きてりゃいろいろある
何かというと全米は泣く
涙が本気を担保する
 
嘘だとは言わないけど
多分それだけじゃないよ
誰にでも裸は見せないだろ
見せない心もあるんだよ
 
予想通りに頂いた感動は
よそ行きの一張羅
カッコ悪いって照れながら
カッコつけてるものなのさ
 
あたりを戸惑わせる素直
こんなはずじゃなかったけど
みっともないんだろうけど
どうしようもないんだよ
 
うれしいのにすましていたり
頭にきたけど苦笑いしたり
涙目を慌てて誤魔化したり
そっちもあやしていたい
 
意地っ張りも見栄っ張りも
疑り深さもさみしがりも
あばたでもえくぼでも
ひっくるめてひとりだろ
 
目に見えない方の涙の
しょっぱさのしみとおる喉
好きなように泣けばいいよ
好きな顔で笑えばいいよ

スカーフとストール

全然違う作品で
同じようなことがあって
ああ誰でもイヤなのねって
思ったことがあったのよね
 
ふうん、どんなの?
愛人にあげて断られたものを
本妻や本命の恋人に渡す男
あー、それはサイアクでしょ
 
やっぱりそう思う?
緑のスカーフと赤いストール
絵もはっきり思い出しちゃう
あたしだったら目の前で破る
 
それがそうでもないのよねえ
使ってるの まあいいかって
ええー、なんで?
私もよくわかんなくって
 
どっちの気持ちも謎だけど
男の側はきょうだい多いかも
だからなんでなのよ
お下がり慣れじゃないの?
 
独創的な情状酌量ねえ
自分用じゃないのが当たり前
イヤだったのも忘れちゃって
ひとも平気と思うのかなって
 
女はまあ、男が戻る話だから
余裕なんじゃないかと思うの
私はどっちの立場になっても
要りませんって言うつもりよ
 
贈り物って 相手のことだけ
考え続けた時間を渡すもので
ないわよ ものに意味なんて
あなた一人っ子だからかもね

今のは誰の話

もう、しつっこいわね
何度もおんなじこと言って
言わせてんのはお前だよお前
頼むから事実だけ言ってくれ
 
ひとつ隣のベンチでは
女の子が赤い靴をぶらぶら
こら、お行儀よくしてな
あのひとおこってんのかな?
 
ひとを指さすもんじゃないよ
おとなだって怒る時は怒るの
しってるよ おとうさんも
俺のは違うよ 叱ってんの
 
どうちがうの、に割って入る
着信音に二人は口をつぐむ
しばしあって男の声がする
嘘のように上機嫌な調子
 
お世話になってますどうも
え?全っ然構わないですよォ
今ですか?ひとりですけど…
ねえねえどうしたのあのひと
 
下品だぞ、盗み聞きってのは
だってあのひとがヘンだから
心配だろ?喧嘩の話なんてさ
じゃあ、あのおねえさんは?
 
そっぽを向きイヤホンの耳
男は背を向けてのびのび笑い
通話を終えて深く溜息をつき
ったくしつこいな、話長えし
 
なんだよ、何笑ってんだよ
…え?ああ、話終わったの?
あなたを笑ってやしないわよ
女の子の???と父親の横顔

死ぬよりいやがること

本人の意思を尊重することと
客観的に適切であることと
自分がこうしたいと思うこと
なかなか一致しないもんだよ
 
例えばね、うちの母は
昔から病院が大嫌いなんだ
父は病院勤めをしたのにさ
そんなことはお構いなしだ
 
調子が悪いと本人も言うし
どうにかしなきゃいけない
何故か不機嫌に詰問する父
母は頑として何もさせない
 
ヨタヨタする曲がった背中
ただ見守るしか出来ないんだ
知らないひとは怒るだろうが
それは母と他人だからだ
 
最近サボってたマッサージ
自分を責めつつ念入りに肩腰
クマのぬいぐるみみたいに
足を投げ出す母にひと匙給仕
 
蒸しタオルを端切れで巻いて
脇の下をあっため話しかけ
ブランケットをはらいのけ
寝ている母をただ見ている目
 
何やってんだと思うだろ?
後悔しても知らねえぞ
言われなくてもわかってるよ
医療畑の人間も親だもの
 
昨日よりだいぶ楽になったわ
のらりくらりいつまで続くか
誰にだって手をこまぬく穴
不安をひとのせいにはするな

しろくろ境界線

子どもの頃には
なかったGoogle Wikipedia
テレビとラジオはあったな
出て来るひとは知っていた
 
知っているとは名ばかりで
出身校がどこで奥さんが誰で
そんなことは何も知らなくて
それで済んでいたんだよね
 
そのことで物足りないだの
わからなくてつまらないだの
感じていた記憶もないんだよ
夢中と玄人の素顔は別のもの
 
昔は今より芸があったから
私生活を切り売りしないのさ
野次馬根性だネット社会だ
やだねえ今の世の中ってのは
 
その皮肉も一理あるとは思う
思いつつ考えてふと気付く
同じ人間だと思って見てる?
今と昔はある意味同じで違う
 
アイドルはトイレに行かない
…は極端でもそれに類する話
それはそもそも人間じゃない
今は引きずり下ろし世間並み
 
誰に頼まれたわけでもない
自分が望んで世に出たんだし
目立つことに文句は言えない
実像も虚像も濁るひとり歩き
 
親しみってやつも厄介だよな
なまじひとだなんて思うから
心配してよろこんで迷うんだ
さみしいから知りたかないや

各々の不在達へ

何がそんなにかなしいのか
わからない自分はつめたいな
そう思って落ち込んでたんだ
ちょうど十一年になるんだな
 
今より輪をかけて小生意気で
ひとの心がわかると思い込んで
だから余計劣等感があってね
つらそうな文面にただ戸惑って
 
"いなくなって気付けたことは
確かにあるけど きっとそれは
なくす前に気付けたはずなんだ
この想いと共に僕は生きるから"
 
いないから失うことはない
失わないから知ることもない
そんなこともあるのだと知り
私の奥底に沈むひんやりの闇
 
いつしか十一年が過ぎた
別の命の終わりを知ってから
同じ文章を読み返してみたら
涙が止まらなくて驚いたんだ
 
あの頃も今も病院通いだもの
ひどかった時よりはマシでも
よくなった気はしなかったよ
でも前より少し人間ぽいかも
 
かなしいわけが理解できた
そういうのとは違うみたいだ
同じかなしみは知らないから
わかったような気がするのは
 
ひとの命がかなしみと暮らす
その一日一日の明滅だと思う
さみしさも怒りも重ねて笑う
いたわりとやさしさだと思う