Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

騙す拡張子

そんなんじゃ騙されないわよ
腰に手を当ててむくれた顔
騙すんなら墓まで騙してよ
死んでも死にきれないでしょ
 
そんな大げさな
杓子定規なこと言ってんなあ
もし自分が騙す側になったら
自分に返ってくるんだからさ
 
あたしはそんなことしない
ひとを欺いてまで貫きたい
そこまでの野望なんてないし
矛盾に耐えられっこないし
 
清きに魚の住みかねて
って言うだろ 理想論だって
自力で生きてないからじゃね?
世の中っていろいろあるわけ
 
…そうかもしれないけど
まあそうだったとしてもよ
全員を騙さなきゃいけないの?
死ぬまで他人なのねえ、私も
 
じゃあ何もかもほんとうの
ありのまま額面通りの俺を
ぶちまけて見せたとしろよ
お前まず着いてきてねえだろ
 
そんなのわかんないわよ
差し引きの問題じゃないの?
自分勝手に決めつけないでよ
それはあたしが決めることよ
 
便所でパンツをなくしたような
心もとなさで首に手を当てたら
あくびのちょこんと目が合った
慌ててかぶり直す親二人分の皮

菓子折りの沈黙

ありえない、絶対駄目ですよ
考えらんないですそんなこと
他のひとなら軽蔑出来るけど
よりによって…僕困りますよ
 
そう責めたいのだろうに
体を小さくして顔色が悪い
つらかったろうね すまない
堅物だからな そこがいい
 
俺も昔は随分幻滅したもんだ
許せなくて恨んだもんさ
誰がなんたって外道なことだ
忌々しい、見損なったってな
 
ひとってのは間抜けなもんで
喉元過ぎりゃ忘れちまって
元はいいやつだったしなんて
水に流せるやつもいたがね
 
俺がそうだとは言わないよ
俺が言うことでもないけれど
割り切れなさも知るがいいよ
抑えがきかない胸のとぐろも
 
もうバカにされたくないから
後ろ指さされたくないから
堂々とひとを責めたいから
俺にも正しくいて欲しいのか
 
お前にもじきにわかるさ
理屈じゃ通らないジクジクが
胸のここんとこにあるんだ
ひとってものは厄介だよな
 
その去来は同じ胸に畳んで
好きにおやりとだけ言って
生真面目はいよいよ身を縮め
濃いクマがふちどる滲んだ目

教えてお兄ちゃん

あっ、あなた観たことある
握手してよ、サインくれる?
写メも、ねえいいでしょう?
箸を持つ愛想笑いが引きつる
 
ありがたいことだぞ
ひなびたところに来ても
そっとしといてもらえないよ
売れてるってことなんだろ
 
今日も好奇の目とご対面か
半ば諦めつつ遠くへ出かけた
無愛想な案内にむくれながら
それもなんか矛盾してるよな
 
古びたバッティングセンター
僕以外には母子連れだけだ
あんまり前に飛んでないな
ひとのことは言えないけどさ
 
カツンカツンやっていたら
背後に母親 びっくりした
あのすみません今いいですか
…なんでしょうか?
 
うちの子に…もしよかったら
教えてやって頂けませんか
わからなくって 私じゃあ
えっ?はあ…僕でよかったら
 
いいか、最後までボール見ろ
ほら、前にのめってってるぞ
カーン!その調子!もいっちょ
パチパチ拍手と上気した顔と
 
僕を知ってか知らずか
二人で何度もお辞儀をしたら
他には何も頼まず手を振った
思い出し笑いで続きを打った

パンドラの卵

不特定多数のひとりなのか
ちっとは特別なところもあるか
よき理解者に見えてるといいな
欲を言えば…欲を言えば?
 
蜘蛛の巣の張った重い蓋を
一瞬開けて慌てて閉じると
ああバカだったなあ俺も
若い時にウジウジしてんなよ
 
その気になりさえすれば
どうにかなったようなことが
カッコつけてる間に消えた
遠吠え 本気じゃないからさ
 
言うよ 始まってもいないのに
いきなり本気になるのは勘違い
そんなことも知らないのかい
真面目ねを皮肉で包む優等生
 
自分で勝手にとことん沸騰して
いきなりぶっかけ払いのけられ
つれないなあ 見損なったって
セニョール そりゃないぜ
 
ほんのりあったかくらいの
段階なら一歩目は友達なのかも
親友にお友達でいましょうよ
それとはアミダの先が違うだろ
 
完全に疲れ果て冷えきってから
まだやってる?ってコンビニか
何を約束してたって終わるんだ
今度はゆっくりあっためるんだ
 
楽しそうだな俺、聴いてんのか
昨日はふてくされてた癖にさ
笑いながらつらいなってなんだ
踏んづけて割るなよ いいな

かぐやの解像度

一分一秒でも長く一緒にって
昔はいろいろ苦心したもので
集金ついでに出張を見送って
改札を背に俯く涙を抱いて
 
言われた門限は守ったけど
残業じゃない日もあったよ
ウソが上手になったいい子
親はそれでも時折イヤな顔
 
織姫と彦星は年に一度か
そんなの考えらんないよな
付き合ってるつもりなんだ
もう他を探せばいいのにな
 
永遠みたいに睦み合う二人も
今は逢うこともないけれど
別に変わったわけじゃないよ
言うなれば月の裏側のこと
 
見た目も好みだしここも合う
だから運命のひとだと思う
ご都合と妥協と欲望の盲目
星の瞳に引き込まれる唇
 
お互い裏は見せないものさ
見えないから信じられたのさ
見慣れた魅力がかすんだら
地軸が狂って向きも変わんだ
 
あれ、こんなひとだったっけ
え、そこでそっちを選ぶって
いけ好かねえ 愚痴が増え
変わっちまったと溜息ついて
 
変わったように見えるのは
変わらない裏側が見えたから
今度は惜しまず見せてやるさ
目をそらさずにいられるか?

遠雷とポスト

明け方 鳴り止まない雷と雨
また川が溢れるのかしらね
書く手を止め、耳をすまして
うちのひとを起こすか迷って
 
最近目がよく見えなくて
読める字で書けてるかしらね
万年筆のインク切れてたりして
いくらになったのかしら切手
 
うちのひとに見てもらえば
いいことくらいわかってるわ
でもなんだか読まれるのはイヤ
いい歳してって呆れそうだから
 
送られる相手のひとにしたって
そうなのかもしれないわね
言いっこないわ、迷惑だなんて
私だってお客さんだものねえ
 
贅沢だってわかってるのよ
ひとりでは何も出来ない私を
黙って支えてくれるうちのひと
たまに電話をくれるうちの子
 
でもたまにさみしくなるのよ
家族って飽きが来ないけど
いやなところも似てくるでしょ
しがらみのない相手に憧れるの
 
有名なあなたにとっては
私は知らないおばちゃんだから
どうにもなりっこないんだわ
それくらい知ってるんだから
 
ねえ、すぐ本局に出して来てよ
急ぎか?やんでからでいいだろ
湯冷めする封筒 そうだけど…
書かなきゃよかった気もするの

しろやぎのおてがみ

あれ、バグまだ来てないの?
急な用事が入ったんでしょ?
さっき何も言ってなかったぞ
私には連絡ありましたけど…
 
…あいつ、やりやがったな
顔をこしらえて席に着いた
日を改めた方がよかったかな
いえ別に、どうしてですか?
 
なんか、ほら、二人なんて
君もイヤじゃないかと思って
それなら先に断ってますって
あ、これです今日のオススメ
 
実は俺が気まずいんだよなぁ
バグのやつ、散々吹き込むから
あいつの言い分がホントなら
俺この子に何話しゃいいんだか
 
その後彼女とはいかがですか
…いきなりそこから訊くか?
何もねえよ、フラレたんだから
……諦めちゃうんですか?
 
あー、もういいよその話
君が言うのおかしいだろ大体
そうですか?私の後輩ですし…
そういう意味じゃない
 
だって…どういう意味ですか
君があんなこと言うからだろが
怪訝そうな目が中空で泳いだ
酔ってたしな…憶えてねえのか
 
サザエ壺焼きから目を上げたら
向かいはせっせと鯛のあら
…こいつなんか腹立ってきたな
勝手に忘れてんじゃねえバカ