Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

しゃーねかろう

えろうぼっこうしゃーねかろう
こうなるともはや呪文か念仏
電話の向こうに話しかける
彼女の声はいつもより弾む
 
うん、うん、ほんならなー…
…ごめんごめん、長かった?
同じひとじゃないみたいだ
悔しいからひとつ訊いてみた
 
なんだっけ、あの、さっきのさ
エロ、ボッコ、シャア…?
え?私そんなこと言ってた?
シャアネカロウ?あれなんだ?
 
シャー?…あ、わかった
えっとね、なんていうのかな
しーんぱーいないさー♪かな?
なに?どこをどう訳してんだ?
 
えろう、が、とてもとかすごくで
ぼっこう、も、まあ似た意味で
しゃーねかろう、が心配ない、ね
はあー…ひとっこともわかんねえ
 
しゃあないやろ、ってあるだろ
あれとしゃーねえって違うの?
多分、世話はない、なのよ元々
世話ぁねえや、って言うでしょ
 
あー、それはなんかわかる
仕方がない、はなんつってる?
うーん、特にはない気がする
どねんかなろう、ってなっちゃう
 
どねん…ってのは何だよ?
どうにかなるでしょ、ってことよ
いらまかすばぁしておんびんくそ
なんかわかんねえけど悪口だろ

チヤホヤ頂戴

なんで立たないのよ
そんなこと言われましても
まばらに座って眺める背と
椅子のえんじ色のビロード
 
誘われて行ったライブで
あんまりよくは知らなくて
周りに合わせるつもりで
周りもそんな感じらしくて
 
滅多にないことだが
終始あったまらない日だった
申し訳ない気はしたのだが
確かに胸は生ぬるいままだ
 
ちょっと意地悪に腰を引いて
チヤホヤされないと怒るのね
こっちもお金払ってんのよね
盛り上げる係はそっちよねえ
 
かっこいい衣装でキメたまま
不機嫌にズカズカ帰って行った
楽しくなかっただろうな
あのひとの満足ってなんだ
 
僕はこうしないといられない
基本 ひとのお世辞は二の次
気が済むまでひとりでもがき
暗闇の向こうから歓声と光
 
俺がっかりさせるのやなんだ
来たらよろこばせたいから
四六時中そのこと考えてんだ
毎回もっと出来た気がしてさ
 
あたしを気持ちよくしてよ
しらけちゃってなんなのよ
好きでやってんじゃないわよ
冷え冷えちぐはぐ緞帳と窓

南京錠の誕生日

何をやっても開かなかった
古ぼけた自転車の南京錠は
誕生日であっさり開いた
一瞬の屈託で手が止まった
 
これだったら絶対忘れないし
今後もずっと変わりっこない
そう本気で思ってたのに
もう忘れかけててバカみたい
 
絶対だの一生だの永遠だの
こじらせた高二の戯言でしょ
こんな数字いくつかあるもの
わけわかんなくもなるわよ
 
その日を見て胸がシクシク
ケーキ屋の前で早足になる
片っぽだけあるイヤリング
自分が主人公になれる感傷
 
でもなんかの拍子にふと
しみじみお幸せにって思うの
調べてまで知りたくないけど
元気でいてって ほんとよ
 
自分のもう知らない未来が
あのひとにはあるんだなあ
それはちょっと悔しいかな
しばらくはそう思ってたわ
 
目が追うのは過去の背中だけ
あたりは綿ぼこりにくすんで
つまらなく見えていたのにね
ある朝久々に笑う あれ?
 
自転車を軽くはたいてから
南京錠の番号を新しくした
またいつか忘れちゃうのかな
スポークに浮かべる背中

うえをしたへ

面と向かってこれを言うと
友達にはいやがられそうだけど
上下関係はあった方が楽かも
実際の主導権がどうでも
 
先輩後輩はもちろんのこと
親子でもきょうだいでも
怒られるだろうけど男女でも
仮に上下をつけておくこと
 
年功序列、男尊女卑
別にそういうことじゃない
後輩が上でもいいわけだし
女が上でももちろんいい
 
時と場合によって
船頭を決めるって言うかね
公平とか平等とかって
同一化が目的地じゃないよね
 
あなたも私も皿洗いが出来て
二人で全く同じ献立が作れて
家電に強くて荷物が持てて
稼ぎ手同士一歩も譲らなくて
 
そこを目指してるんじゃ
なかった気がするんだよな
あなたが上手だから任せるわ
それもお互いの尊厳だから
 
なんであたしがやるんですか
僕そういうの苦手だから
なすり合う間にやるがいいさ
得意技はかっこいいんだから
 
自分はヘコヘコしたくない
私は立てるのが苦にならない
その凹凸を見て細工する組木
それが公平ってことじゃない

空席アテレコ

自分の食べる音なんか
気にしたことがなかったな
うちは割と大家族だったから
なんだかんだ騒々しくてさ
 
喧嘩してる時もあるし
好みのおかずばっかじゃない
でもどのみちハラは減るし
食わなきゃ食われちまうし
 
ひとりで飯食ってると
雨音も救急車のサイレンも
隣町の交差点のピポ・ピポも
聴き分けられそうになるよ
 
なんかもう怖くて
手探りでテレビをつけて
笑い声に笑われてる気がして
物騒なニュースは同い年で
 
俺がささくれるようなこと
悪びれず流さないでくれよ
俺じゃないターゲット
そんなことわかってるけど
 
自分だけを心配する声が
向かいでご飯を食べてたら
なんでもうまいんだろうな
適当に聴き流すんだろうな
 
有り余るヒト型の微笑み
どれひとつ俺仕様じゃない
誰のことも思い描かない
驚いたフリのクロマキー
 
俺以外目もくれないやつが
いつでもいてくれないかな
手渡しのびっくりとハテナ
いやになるまで話さないか

封じ手の次の手

最近ロクなことがないんだ
捻挫に虫歯 ハラも壊した
どっかで落っことしたSuica
贔屓のチームは負けるしさ
 
もっと大変なひとが…って
そりゃまあそうも思うけどね
でもなんかの予兆かもって
いつか刺されるトドメのね
 
よくわかんないけど
トドメはみんな刺されるわよ
死なないひとはいないもの
それまで生きるだけのことよ
 
そりゃそうだけどさ
思い残すことがないかとか
いい人生だったかとか
死ぬまでわかんないじゃんか
 
わかんないからいいのよ
なんだそれ どういうこと?
どう転ぶか決まってないもの
この次はひっくり返せるかも
 
お前は楽観主義なんだなあ
そんなでもないんだってば
お調子乗りの次は落とし穴
ひとが凹んだ時はさかしま
 
気が休まらないよそんなの
ずっとよくも悪くもないの?
いい悪いって誰が決めるのよ
負けたら終了の方がいいの?
 
じゃあ、勝つってなんだよ
死ぬまで死なないこと
わかってるよ、当たり前だろ
楽観主義ってあなたのことよ

家々から来た灯り

枠外に誘導された駐車場
汗を冷ましてふと気付く
たった七分の一日弱だろう
片時も座ろうとしない感情
 
紗がかかるほど涙を絞って
直後にふはははは笑って
声を出さずに口ずさんで
ぼうっとした続きで踊って
 
ヘンなひとみたいだな
あ、私はヘンなひとだった
いやはやそれにしてもだ
全然慣れないものなんだな
 
そう来ると思いましたが
やっぱりそう来ましたか
いよっ大将待ってました
それとはどうも違うんだな
 
構えたって歯が立たなくて
おそらくは意識の隅っこで
探していたはずのもので
でもこんなにあったっけ?
 
きっと心に寄り添うことも
口で言うよりむずかしいよ
終わるまで終わらないもの
投げ出すひとも多いもの
 
同じ場所に集うひとに
てんでに異なる生活があり
地続きの世界が寄り添い
点滅するかなしみよろこび
 
感じられるようになったな
何ができなくてもいいから
死ななかった方になるんだ
祈ったら生きかえっただ