Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

転ばぬ先転んだ後

そんな馬鹿馬鹿しいことに
振り回されるのはよすがいい
道理だって通ってやしない
まずは自分を守るのが常識
 
友達からのよかれの警告
神妙に頷いてから首を傾げる
心配してくれてありがとう
でも好きでやってんだ、僕
 
そういうのさあ、洗脳だぜ?
今はよくても絶対後悔するね
つらくても騙されたと思って
一旦やめてみた方がいいって
 
悪く思わないで欲しいんだ
どっちみち騙されるんなら
自分で決めた方がいいから
師匠と弟子みたいなものかな
 
どういう意味?
傍から見たら理不尽だったり
非効率的だったりもするし
そこに理解は求めないって話
 
そんな例外が基準になるかよ
お前は修行自体なめすぎなの
続かねえやつの方が多いだろ
やめてよくなる場合もあるよ
 
助けられた恩義もあるから…
たくカッコつけてやがんなあ
面倒くせえからに決まってら
そこまで思われてんのか?
 
沈む船なら僕も一緒に沈むよ
死ぬならそっちに憧れるもの
お前今年でいくつになんだよ
俺にはわからん 勝手にしろ

ネトリール

驚かないで欲しいんだけど
ほんとうはそうなんだよ
君の理想像とは違うんだろ
がっかりさせてごめんよ
 
一瞬硬い表情をして
白いおでこをうつむかせ
ふうと息をつき空を見上げ
やっぱりそうだったのね
 
軽蔑してくれてもいいんだ
ほんとうのことを言えば
全部台無しにする気がした
騙した方が得だとも思った
 
みっともないリアルなんて
誰も求めてないだろうしね
ひとのためだとも思ってて
ヒロイズムもあったはずで
 
ひとのためにがなかったら
多分だけどそんなに長い間
辛抱してなかったと思うわ
理不尽なの苦手そうだから
 
わかるわけじゃないけど
つらくないんならいいのよ
演技が生きがいならいいの
その生き方もあると思うよ
 
そうだなあ、どうだろうな
君に今こぼしたってことは
つらくなってきてたのかな
自尊心…は大げさだけどさ
 
でもうれしいな、ありがと
え、何のこと?
軽蔑するわけないでしょ
私にして欲しかったの

目的地の周辺

随分ざっくりとした地図で
僕はどうにも方向音痴で
ハナから覚束ない気分で
でもおくびにも出せなくて
 
いかにも自信たっぷりに
背筋を伸ばし大股で歩き
ここだと思う角を曲がり
うん、多分きっとこっち
 
…あれ、おかしいな
ここにあるはずの郵便局が
どうも見当たらないな
方角はあってるはずだよな
 
しばらくは頑なに信じない
大きく間違ってはいない
なんたってこんな地図だし
なんなら誰かに訊けばいい
 
そろそろ間に合わないかも
コンビニに駆け込むと
バイトの女の子は困り顔
よくわかんないんですけど
 
ぷつりと切れた凧の糸が
ぐるぐる遠ざかる僕の頭
さっきまで正しかった
あの道は一体なんだった?
 
まったく癪に障るけれど
観念して電話を手に取ると
迷ってるみたいなんですよ
なんだ、早く言って来いよ
 
降参するしかないんだ
明日も迷うにしたってさ
どこから間違ってたんだ
そんなのは後でいいから

不惑の終わり

なんつうかやな数字だよなあ
うーん、そうかなあ
昔っからそう言うじゃねえか
死んで苦しむってんだから
 
他の迷信はうっちゃっといて
そこだけ気になるもんなのね
わかんないけど大丈夫だって
五十過ぎたら皆不幸なわけ?
 
いやまあ、そうじゃないけど
設定あんじゃん、画像加工の
明度彩度で4と9飛ばすんだよ
あ、うん、それはあるかも
 
んだよ、あんじゃねえか
そうよねえ、なんでかな
多分、自分で選べるからかな
年齢は気合でまたげないから
 
そりゃまあそうだろうけど
なんかやなことあった時の
言い訳には絶対すると思うよ
しょうがねえよこの歳だもの
 
うん、それはいいかもねえ
え、なんで?
不運は自分のせいじゃなくて
そのせいにした方がいいって
 
なんでも悪くとるんだから
あさっての方に当たるよりは
歳が避雷針になる方がいいな
迷信の使い道、見つけたわ
 
屁理屈言ってやがらあ
まあまあ、不惑も最後だから
古稀でも惑うに決まってんだ
さ、そろそろ洗濯干さなきゃ

セピアの彩色

自分の錆色の人生とは
全く関係ないことの結果が
一瞬遠くの色彩を照らした
僕は気付かないふりをした
 
朝食べたままのラーメン鉢に
チンしたパックご飯をぶちこみ
パカッと卵を割り醤油をたらし
立ったままかきこむ午前0時
 
あいつがいた頃は
うまくもない飯で急かされた
早くしてよ片付かないから
あれよりは自由だしいいかな
 
都合も訊かずに風呂を焚いて
自分は長々浸かっておいて
さっさと入っちゃってよね
別にシャワーでいいんだって
 
敗戦処理の残業でぐったり
頼まれた何だかを忘れた日
舌打ちを咳払いでごまかし
別にいい もう頼まないし
 
何もいやがる自分を抑えて
誰かに羽交い締めにされて
暮らしてたわけじゃなくて
いつからこうなったんだっけ
 
やさしかった頃のことは
のべつに自慢して話したから
いつでもどこでもすらすら
おまじないか念仏みたいだ
 
垣間見た絵のようなものが
何もかもを塗りつぶすのなら
幸せも不幸せも薄れるのか?
まぶたの残像がしみてきた

平常時パトロール

いつもの診察が終わって
増えていた体重を気にして
緑道公園を端まで下って
ぐるりと幹線道路に出て
 
疲れたら乗るつもりだった
路面電車を右手に見ながら
まあまだどうにか行けるな
大股でのしのし歩いた
 
あれこんなところにお寺が
また随分足の短い犬だな
そんなことを考えていたら
ピリリと響き渡りたまげた
 
交差点の手前のバイク屋の
手前の歩道に傾けた自転車と
片足つき車道を見やる警官と
その手元から呼子笛の音
 
拡声器で何やら呼びかけたら
車道の一台がゆっくり寄った
我が自転車を見回した警官は
うんせうんせと端に寄せた
 
店のシャッターの前で
丁寧にスタンドを立てて停め
出てきた運転手と苦笑し合い
話しかけつつ書類を指差して
 
恐らくこんな会話
あのへんで携帯使われましたか
運転手は頭を掻き使いました
決まりで…免許証ありますか?
 
昼下がりの歩道 双方穏やか
私は自転車と二人の間を抜けた
捕まえる前に捕まっちゃった
飛び跳ねる亜空間のモンスター

遺言アップデート

どうにもならないことは盾
ほら、しょうがないですよね
どうにか言い負かしたいだけ
それじゃあ仕方ありませんね
 
ほんとうに言いたいことを
言いたいひとに言うんだよ
言わなければよかったと
言えばよかったが殺すもの
 
誰も傷つけたくないひとは
自分こそ傷つきたくないのさ
捨てないものを選ぶことは
めんどうくさいし損だから
 
ああ誰かお人好しが現れて
全部捨ててボロボロになって
非難をはねつけ手を差し伸べ
言わないかな好きにしてって
 
さすがにこのまま言わないが
そりゃあ虫がよすぎるよな
まあ自分でもわかってるんだ
どっちもどっちのお互い様
 
昔はいろいろありましたけど
今はそれなりに幸せですよ
傷つき傷つけたさそのひとも
誰になじられたかしれないよ
 
崖や谷を遠目に美しく見て
なんなら堕ちたひとを笑って
いやあ、よくやるよね
君子危うきに近寄らずってね
 
そうやって清く生きればいい
破かないシャツ 流れる血
見るなよ 誰も救えやしない
知るかよ 恰好いいって何?