Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

平常時パトロール

いつもの診察が終わって
増えていた体重を気にして
緑道公園を端まで下って
ぐるりと幹線道路に出て
 
疲れたら乗るつもりだった
路面電車を右手に見ながら
まあまだどうにか行けるな
大股でのしのし歩いた
 
あれこんなところにお寺が
また随分足の短い犬だな
そんなことを考えていたら
ピリリと響き渡りたまげた
 
交差点の手前のバイク屋の
手前の歩道に傾けた自転車と
片足つき車道を見やる警官と
その手元から呼子笛の音
 
拡声器で何やら呼びかけたら
車道の一台がゆっくり寄った
我が自転車を見回した警官は
うんせうんせと端に寄せた
 
店のシャッターの前で
丁寧にスタンドを立てて停め
出てきた運転手と苦笑し合い
話しかけつつ書類を指差して
 
恐らくこんな会話
あのへんで携帯使われましたか
運転手は頭を掻き使いました
決まりで…免許証ありますか?
 
昼下がりの歩道 双方穏やか
私は自転車と二人の間を抜けた
捕まえる前に捕まっちゃった
飛び跳ねる亜空間のモンスター

遺言アップデート

どうにもならないことは盾
ほら、しょうがないですよね
どうにか言い負かしたいだけ
それじゃあ仕方ありませんね
 
ほんとうに言いたいことを
言いたいひとに言うんだよ
言わなければよかったと
言えばよかったが殺すもの
 
誰も傷つけたくないひとは
自分こそ傷つきたくないのさ
捨てないものを選ぶことは
めんどうくさいし損だから
 
ああ誰かお人好しが現れて
全部捨ててボロボロになって
非難をはねつけ手を差し伸べ
言わないかな好きにしてって
 
さすがにこのまま言わないが
そりゃあ虫がよすぎるよな
まあ自分でもわかってるんだ
どっちもどっちのお互い様
 
昔はいろいろありましたけど
今はそれなりに幸せですよ
傷つき傷つけたさそのひとも
誰になじられたかしれないよ
 
崖や谷を遠目に美しく見て
なんなら堕ちたひとを笑って
いやあ、よくやるよね
君子危うきに近寄らずってね
 
そうやって清く生きればいい
破かないシャツ 流れる血
見るなよ 誰も救えやしない
知るかよ 恰好いいって何?

四次元の内訳

うたを聴いた時に
その登場人物を思い描き
知らない言葉は適当にぼやかし
五分かそこらの試写会
 
お互いに見せあっこ出来たなら
こんな風にイメージしてたんだ
あたし、駅の場面だと思ってた
待たされるやつ、こんな男前か?
 
つくったひとが半透明で現れ
ま、正解なんてないですけどね
つまりはマッチ棒とマッチ箱で
火が点けば始まる、それだけ
 
同じことを見聞きしながら
あさってのことを描きながら
黙って手をつないで歩いた
泣くのわかるなぁ、と俯いた
 
確かめようがないからこそ
そのあわいで重ね合う色を
他の誰にも知られたくないよ
君にだけ伝わるといいけど
 
そう、あたしもそれ思った
んー、あたしは違うかな
どっちでも身を乗り出すんだ
君が見た景色はどうだった?
 
言葉ってカッコつけ病だし
言うほど離れてもどかしい
カードめくりは暇つぶし?
誰でもよければよかったのに
 
見つめ合った沈黙の後は
同じ方向を見るといいそうだ
同じものを映して生きるんだ
見落とした色は僕の瞳の中

悩みごとの表層

知り合いが悩んでいて
それはこれこれこんなことで
私どうしたらいいでしょうって
それはおせっかいの丸投げ
 
勉強できないモテない仕事ない
世はありふれた悩みでいっぱい
誰だって日々あれこれ忙しい
正直言って構っちゃいられない
 
それでもそれが本人の悩みなら
自分がお役かどうか知らないが
相談相手に選ばれて光栄だから
考えて自分で答えを探すんだ
 
家族も親友も誰より本人も
知らないひとよりは考えてるよ
代わりに試験受けてくれるの?
あなたが恋人になるっての?
 
自力で考え続けられないことは
ほんとうはどうでもいいことだ
それがいけないんじゃないんだ
親身なフリはバレるってだけさ
 
どうでもよさそうな軽い調子で
遊び半分みたく冗談交じりで
半笑いを浮かべた相談だって
胸の内が余裕とは限らなくてね
 
暇つぶしの場合も勿論ある
後がないSOSの場合だってある
疑って決めつけたら全部終わる
どのみち何も出来ないだろう?
 
僕は落ちこぼれでダメなんです
つらい話ほどおちゃらけられる
私の良心が痛んで困るんです
そっちは見られて困らない王道

つまらぬものでは

何だったらよろこぶのかな
あんまり安っぽいのもな
でも高すぎても気兼ねだよな
他とかぶるのもダサいしな
 
何が好きだって言ったかな
何かきらいなものあったかな
邪魔にならない方がいいよな
でも印象は多少残したいかな
 
一緒に行けば間違いないけど
気持ちを手渡すってことよりも
ものだけ先走ってる気がするよ
僕じゃなくていいんじゃないの
 
でもヘンに驚かせようとして
失敗することも多いんだよね
ロウがついたのつかないのって
 
ロマンかはたまた実用か
控え目かそれとも押せ押せか
フレッシュか日持ち優先か
話題の店か老舗か隠れた名店か
 
気が利いてるって言われたら
まんざらでもないさそりゃ
悩んで迷ってたのがバレたら
ちょっとカッコ悪いかもな
 
おずおず差し出した包みを
目を丸くして見つめると
え、いいのに、そんなの…
それを言っておくれでないよ
 
一瞬靴を見てムッと黙ると
あなたがいてくれれば何も…
目を上げると眉を寄せ赤い顔
…嘘 なに?何が? う・そ!

汗水の受取人

さりげない新技術や
ちょっとした工夫が
なんのためだったか
見失うこともあるんだ
 
ここんとこ徹夜続きで
ろくなもん食べてなくて
レッドブルは四本目
アイディアを振り絞れ
 
朦朧としながらひたすら
走らせてちゃんと動くか
対応に追われてフラフラ
とにかく間に合わせるんだ
 
なんとか納期に間に合う
出荷してやっと家に帰る
風呂で船を漕ぎ頭をぶつける
眠る眠る眠る
 
やってられないよ
口では言うけどやめらんないよ
ほんとはもっと楽したいけど
いい歳だし不安もあるけど
 
あくせくつくったものに
何も言われないことの方が多い
文句があるひとの声は大きい
柄にもなくしょげて歩く帰り道
 
僕を見てだしぬけに背を向けた
ちっちゃな女の子 笑う母親
お礼言いたいって言わなかった?
すみません、いつも夢中だから
 
あ、そうだよ、そうだった
ものをつくりたいんじゃなかった
人生の端っこを借りたかった
うれしいをそこにつくりたかった

ひとからげない

余計な特別扱いをするな
誰とも変わりゃしないんだ
ちっとは特別扱いしろよな
君たちとは違うんだから
 
どっちも心底ほんとうで
さすがにこれは無理だよね
まあこれくらいは出来るよね
どっちもなんだかムッと来て
 
でもその苛立ちってきっと
あらゆる心の中にあること
俺は俺だ一緒くたにすんなよ
レッテル貼ってんじゃねえよ
 
ひとまとめでうっちゃられて
中っ腹になったけれど黙って
わかりっこないんだよどうせ
そう思うならこっちもそうで
 
わからないことはわからない
だけど俺ならこうして欲しい
そう思うならそうすればいい
それで間違ったら直せばいい
 
さわらぬ神にたたりなし
でもみんな神なんかじゃない
もしかして人間と思ってない?
それともさみしい神々の遊び?
 
みんな違ったから生き延びた
何かで誰かをきらいになれば
まつわる全部がいやになるんだ
ひと括りにしたらそうなるんだ
 
切り離せ ちゃんと切り離せ
そうしてもう一度全部を許せ
ひとならばひとを見て変われ
新しい自分で古い自分を許せ