Okay, bad joke.

詩のドラフト倉庫

柚子のある横道

歩いて仕事場に行く時は
ちょびっとだけ近道だから
居酒屋前の路地を通るんだ
軽四でも入れない道さ
 
昔は通ってたと思うよ
友達んちの自動車工場の
すぐ脇に出る道だったもの
時々は自転車で本屋にも
 
秋くらいからあったのは
多分柚子の実でたわわ
食べないのか食べてんのか
とにかく鈴なりなんだ
 
大抵セカセカしちゃって
黄色は残像がいいとこでね
帰りは真っ暗 曇る眼鏡
星空にも気を取られるしね
 
それがここ数週間かなあ
手前の木が咲きだしてさ
品種はよくわかんないや
早咲きの桜だと思うんだ
 
普段からじっくり見てりゃ
桜の木かどうかくらいは
見分けられてたのかなあ
つい立ち止まって眺めた
 
通う度に花が増えてんだよ
花粉症だし春っつっても
いい思い出なんかないけど
それでもかわいいもんだよ
 
柚子はまだまだたんとある
散歩の黒犬がうんこしてる
手前に用水路が流れている
去年は気付かれないでいる

土中成長アルバム

とかく眠くて眠くて
薬を飲み忘れて寝て
起きて時計見て慌てて
薬飲んでまたぶっ倒れ
 
死ぬんかな?と訊くと
死にゃあせんと呆れ顔
口から糸が出るのかも
繭は茹でて中の虫を…
 
まるで病気みたいだ
そういや病気だったな
眠れないはずだけどな
震えどめは飲み忘れた
 
勝手に遊んでることと
対価発生の頼まれごと
優先順位がどうのこうの
言われたくもないだろ?
 
病気だからしょうがない
自分で言うと何か虚しい
しょうがないよ病気だし
ひとに思われても侘しい
 
春だからです
別れの季節だからです
出合いの季節も近いです
無理もないでしょう
 
浮足立ったり凹んだりは
季節とはまた別なのだが
いい言い訳も遊びだから
適当に流してくれれば
 
ぐっすり寝て起きたなら
悪い夢も喰い尽くすから
そっちが不安がる頃には
頼まれなくても笑うから

14年ぶり5年目

一月も半ばを過ぎて
親の電話 ダメ元確認で
ぎんざやの券は売り切れ
行き掛けの駄賃で入る店
 
来るだけは何度も来た
ロフトの手帳コーナーは
年末と新年度との合間
峠を越して気楽そうだ
 
時給で単純計算すると
今の分と別に持つのも
贅沢かなあと迷うもの
CDは買える癖に変なの
 
よく見ると二割引シール
うーん、だったらお得?
おつとめ品の心理が動く
パチパチのパチで皮算用
 
ポケット新日記は買った
ウィークリーは重なるな
一日一ページも書くか?
長文はパソコンが楽だな
 
誕生日もそろそろ近付き
くさくさ過ごす睦月如月
生きてどうする?の問に
5年手帳の表紙の金文字
 
5で割れば656円
定価としても760円
みみっちいやそんな換算
5年指定券でいいじゃん
 
あの時見失った五年後の
足跡が繋がりゃ上出来よ
何日も飛んでは遡るけど
話し相手になってきたよ

お茶碗半膳の祝い

44歳だって
数字の縁起もどうもアレで
もちろん若くはなくて
でも年寄りぶるには早くて
 
いるだけまだいい親でもさ
弱ってくるお年頃だもんな
独身子なし恋人なしだとさ
なんかいいことないかなあ
 
数日違いの友達あてにと
よんだのしだのフォーだの
語呂合わせを考えつつも
どんよりとの戦いだったよ
 
自分の誕生日も過ぎて
どうってことないやって
開き直った頃になって
思いついたことがあってね
 
88歳が米寿だから
その真ん中が44歳だ
還暦なんて呼び名だってさ
くるっとしてるわけだから
 
後半のはじまりってことで
まあいいんじゃないのかね
最後は末広がりにしたって
中間点はこんなもんだって
 
今までいろいろあったろ?
同じくらいあれこれあるよ
いいことも悪いことも
なんだかんだあると思うよ
 
若い時ならお手上げだろう
絶望を知りつつ生きている
どうにかなると知っている
これからの朝夕をことほぐ

キャッチのサイン

読めるかな?と訊いたら
黙って首を横に振った
恥ずかしがり屋さんかな
そういう子もいるよな
 
次は消え入りそうに小さく
読んでくれてうれしくなる
はい とってもいいです
ずうっとよくなってます
 
次は新しい指示があって
私がちょっと勘違いして
ここは読まないんだっけ
間違えちゃった ごめんね
 
今度は答案一枚持つと
真正面に仁王立ちの彼女
黙ってちゃわかんないよ
何十年ぶりのにらめっこ
 
読む?どした?と訊いたら
何度目かにちっちゃな指が
バン!と答案を指した
○の中に100点がなかった
 
ああ〜ごめんそっかそっか
言ってぇー!と訴えながら
1・0・0と書いて渡したら
ふふんの顔で帰っていった
 
少しドキドキもしたけれど
マスクの中でふふふふふと
思い出し笑いをこらえるよ
いいね ナメられるのも
 
ふきげんでもつかれたでも
まちがってる!でもいいよ
気持ちぶつけてもらえると
見えてることがわかるもの

凸凹の手触り

忙しそうだと頼みにくい
忙しいひとに頼む方がいい
どっちも言うけどどっち?
偉いひとはいちいち言わない
 
まったくこれだから女は
そう言われるのも癪だから
敢えて言い訳しないだけでさ
月のアレで重だるいんだぁ
 
持病でもあればなおのこと
ムラなしで過ごせないもの
前に言われた時はニコニコ
同じことが癇に障りお小言
 
ひとに見せないところで
あっちゃこっちゃ帳尻合わせ
素知らぬ顔も悪くはないね
平気なフリがほんとになれ
 
全部ならして同じ顔なら
機械の方が得意だろうな
飲まず食わず寝ず勝負じゃ
敵わないに決まってるから
 
他にもやることあるんだ
休みない寝てないドーダ
言ってもしょうがないよな
ほんとに嫌なら逃げるんだ
 
食べたら機嫌がよくなる
寝たらケロッとして笑う
惚れたらカッコつけたがる
無性によしよししたくなる
 
なんてことないスイッチが
凹ませ膨らませていくんだ
いちいち手こずればいいさ
血が通うってだけのことだ

気弱さの比較級

このペンじゃないと
どうもしっくり来ないんだよ
あれこれ迷ったフリをしても
今度も同じツバメノート
 
パソコンってやつも意外に
そういうとこがあるらしい
イメージはもっと無機的
理屈では動けばなんでもいい
 
三年ちょっと前まで
違うの使ってたはずだよね
最初はしっくり来なくて
まあ動作は速いかなって
 
それが壊れちゃってさ
とは言えキーボードだから
何日かで直るらしいんだ
まあ結構なお値段だけどさ
 
落ち着かないもんだねえ
こんなちっぽけなことで
日常の乱され方を知って
重いつらさの隅っこに触れ
 
こんなことで弱音吐いてる
場合じゃないってつい思う
その癖そんな風に強く清く
正しい心に責められもする
 
戦争の話なんて聴くとさ
焼夷弾から逃げるのに下駄
ズックにすりゃよかったわ
え、そこ?でもそうなんだ
 
一大事の時も些細なことを
悩んでクヨクヨしてようよ
楽しめることを楽しもうよ
あしたにようよう灯る過去